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第184話
自分の荷物をまとめて親父の部屋に向かう。
今まで何度も来た部屋なのに、未だに少し緊張する。
「失礼します。神崎です」
声をかけると返事が聞こえて、それから部屋に入った。一度頭を下げて「荷物は纏めたか?」と親父の声が聞こえてきて顔を上げ、「はい」と言いながら頷いた。
「今までお世話になりした。」
床に正座をしてまた頭を下げる。
「頭上げろ。」
そう言われて頭をあげると、親父が優しい表情で俺を見ていた。
「俺の方こそ、今まで力になってくれてありがとう。お前はもう自由だから、過去に縛られずに新しい人生を生きろよ。」
「······はい。」
「たまに戻ってきてもいいぞ。また相馬達の相手してやってくれ」
温かいこの場所から離れないといけない。
俺自身が前を向いて歩いていくために。
親父と少しだけ話をして、それから若のところに向かった。
親父の部屋に入った時と同じように、若の部屋に入って、また同じように床に正座して頭を下げる。
「そんなことしなくていい。」
「······若には秀との事でも迷惑をかけました」
「いいんだよ。迷惑なんて思ってない。」
若は笑ってそう言ってくれる。
「ずっとここにいたら出たくなくなっちまうだろ。早く帰れ。冴島も待ってる。」
「はい」
「気を付けてな」
「ありがとうございます」
これで最後だ。もう終わり。
部屋を出て、荷物を取りに戻り幹部達にも世話になったと挨拶をした。
車に荷物を乗せ、自分も乗り込んだ。
名残惜しいけど、ここから出ないと。
ゆっくりと車を動かし門の外に出る。
呆気ない。
それでもここが俺の新しい生活の始まりだ。
「······早く帰らないと」
秀が待っている。
心配性だからきっと、俺が無事に帰ってくるか不安に思ってるに違いない。
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