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第9話

 陸夫は、一郎のあまりの危機感のなさと、男に絡まれやすい性質を心配して、大学内でもそばにいることにした。一郎はなんだか嬉しそうだったが、ちらりと彼に視線をくれた誰もが、陸夫の姿を認めると、目をそらし逃げるように去っていく。全くと言っていいほど、誰も一郎のそばにこなくなった。  一郎は食糧難に陥った。  腹が減った一郎は、やたらと陸夫のものを吸いたがるようになった。気が付くと股間にうずくまっている。ぐいぐいと一郎の頭を押しながら、陸夫はうんざりとため息をついた。 「やめろって。俺はうしろでイキてーの」  セックスとは別に、精液をくれればいい。それだけだ。これは食事なのだから。  一郎の発言はしかし、最後までもたないくせに何言ってんだよ、と一蹴された。まったくその通りなので何も言えない。  一郎は陸夫がそばにいてくれて嬉しい。しかし腹が減るので人間がよりつかないのは困る。そして陸夫は食料の補給に協力してくれない。  少しずつやつれていく一郎を見かねて、陸夫は食事の時だけ、いつでも助けられるようにそばにいるという妥協案を提示した。心配するだけしておいて、人が来なくても知らないとは言えなかった。自分のものを吸い尽くされても困る。  一郎はしぶしぶ頷き、名残惜しそうに陸夫の股間をじとりと見つめていた。  陸夫の影がなくなって、一郎は元の人気を取り戻した。  さっそく学生がこっそりと一郎を校舎の陰へと連れていく。何かあれば叫ぶように言ってある。別に見たいものでもないし、声が聞こえるのも嫌なので、陸夫はある程度離れた場所まで歩いていった。ぼーっと携帯を見ていると一郎が戻ってきた。  少しすっきりしている。どうやら腹は満たされたようだ。  しかし。  口元に血がついていた。 「おい、何かあったら叫べっていっただろ」  陸夫の低い声に、一郎はびくりと身を引く。おどおどとしながら陸夫を見上げた。 「何もなかった」 「何もなくてなんで血がついてんだよ」 「これは……」  先程相手にした男が、興奮のあまり突然喉の奥まで突っ込んできたのだ。思わずえずいた一郎のキバが、男のものにぎりぎりとこすれていく。薄く出血し、痛がるかと思いきや、おそらくその痛みのせいで男は果てた。そして気を失った。  そう説明すると、陸夫は何とも言えない顔をし、ぐいと一郎の口元を拭った。汚えと言いながら、手を洗いにトイレに入っていく。口を洗うように言われ、一郎はごしごしと水をつけながらこすり落とした。 「食事大変だな……」  陸夫がそうつぶやくが、一郎は特になんとも思っていなかった。地獄へ戻りたいという欲求は薄れている。ならカウントなどあまり気にしなくていい。 「あんたのものをくれればいい」  そう言うと、陸夫は少し嫌そうな顔をした。一郎は傷ついてうなだれる。何かあった時のためにそばにいるほうが面倒なのではないか。しかし、これ以上言うと陸夫が離れていってしまいそうで、一郎は口を引き結んだ。  そして今、部屋に戻った陸夫は一郎の上にまたがっている。  あいかわらずツノのありかはわからないままだ。

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