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「……あとは、煮汁が無くなるまで落し蓋をして煮詰めて完成だ」
「へー、意外と簡単なんだな」
アルミホイルで落し蓋をしながら、僕の言葉に本気で感心したように隣で頷く同室者。こういうところが彼のいいところだ。というか僕が好ましく想うポイントでもあるし、教え甲斐があると感じる。
いつものように台所に2人で立って料理を教える、この時間が好きだった。僕はそんなに笑うタイプじゃないけれど、彼と話していると自然と笑顔になってしまうんだ。
基本は明るいのに賑やかにはっちゃけるタイプではなく、気遣いもしっかりできる。そんな奴と友人として付き合えたらきっと毎日楽しいんだろうな。
ついそんな気恥ずかしくなるような事を考えてしまい、アルミホイルを横の棚に戻すフリをして同室者から目を逸らす。
その時チラリと視界に入ったのはもう1人の視線。
そういえば先程から何も喋っていないな、と。
携帯でも触っているんだろう、と思っていたのに予想外に目があってしまい、一瞬ギクッとした。
彼のあんな顔、僕は初めて見た。
同室者の友人は室内のソファーからこちらを見ていたようだが、その顔は恐ろしく無表情だった。
僕は同室者とは仲が良い方だと思うし、そんな彼の友人は頻繁に部屋に訪れるから、もう少しで学年が上がる約1年。彼の友人のこともよく見ているつもりでいた。
いつもどこか飄々としていて余裕がありどちらかというと人好きのする笑顔を浮かべていることが多い。
同室者との会話のなかで冗談で真顔になったりすることもあるが、それほど仲良くない僕から見てもノリだと分かる。
だけど、それが一体どうしたというのだあの顔は。
見てはいけないものを見た気がした。すっ、と周りの音が消える。なのにその無表情の中でドロリと濁る視線に、目が反らせず固まってしまった。
きっと時間にしたら数秒のことだろう。
僕と視線が交差した同室者の友人は、すぐにニコリと口元にいつもの笑みを浮かべた。
「…んじゃさ、白鳥くん。悪いんだけど俺ちょっとトイレ行ってきていい?軽く漏れそう」
「…っ!あ、ああ。行ってらっしゃい」
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