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06
呆然としている意識は、隣から聞こえてきた声に引き戻された。僕の返事に笑顔でお礼を言うと同室者は切羽詰まっていたのか足早にトイレに消えて行く。
同時にソファーから同室者の友人が立ち上がった。すぐに僕の横まで来て、鍋を覗き込む。
スンと香りを吸い込んだ友人は目を奪われるような甘やかな表情へと変わった。
「美味しそ。…いっつも智ちゃんに料理とか掃除とか、教えてれてありがとねえ?」
「……いや、僕が気になってただけだから」
そういえばこうして2人だけで話すのは初めてじゃないだろうか。先程の顔を見てしまったからか、変に緊張してしまう。
「智ちゃん、白鳥クンと部屋が離れるの寂しいって言ってたよ~」
「………そんなこと言っていたのか…?」
…そうか。そんなことを。
思った以上に嬉しいな。
僕も柄にもなく、似たような事を考えていたのだ。
最初はとんでもないやつだと思っていたが、そんなことはない。2年になったらきっと部屋は変わってしまうが今度は友人として、たまに料理を教えに行ってやってもいいかな、なんて思ったりもしていた。
だからその言葉に多分無意識に顔が緩んだんだ。
そんな僕を見て友人はこちらに体を寄せ、顔を近付ける。
そんなわけないと脳では理解しつつ、一瞬キスでもされるのかと戸惑った。だけどやはりそれはただの勘違いで、友人は僕の顔の近くに唇を寄せて来ると優しげな口調でこう言った。
「うん、だからもう充分。もういいよ。今までありがとね?」
言葉通りの労りを感じる静かなトーンで囁かれたというのに、僕はその台詞に何故か背筋が凍りつく。
後退り至近距離で見つめた顔は、やはりとんでもなく整っていて、同じ男から見ても羨ましい程の男前。
だけど、その笑顔が酷く恐ろしく感じた。
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