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第3話

口内で質量を増す雪弥のソレが喉の奥をずんっと突いた。 「んう、うっ。はっ…あ」 「苦しい?蓮さん、苦しいの、キライですか?」 ベッドの上に膝立ちになった雪弥が俺の前髪を強く掴んで無遠慮に腰を打ち付けてくる。 呼吸が止まるくらいの律動に、体がどんどん熱くなって、苦しいのに、自ら奥に届くように頭を動かした。 だんだんと息が上がってきた雪弥が俺の頭を抱え込むようにしてスピードが早まって、 「はっ、蓮さん…出しますね。どこがいい?」 「んっ、ふ、ぁ…口に、口にして…っ」 裏筋の張りが増して最奥まで押し込まれる。 どくん、とソレが一瞬はねて、続いて口内にどろどろと精液が流れ込んできた。 1滴も零さないように、口をすぼめたまま根元から吸い上げると雪弥の笑ったような声が聞こえた。 「じょーずです。蓮さん、こっち向いて?」 「ゆ、きや…」 先ほどまで強く掴まれていた前髪を梳かすように優しく撫でて、雪弥の大きな手は俺の頬に添えられた。 さっきまでの加虐心の混じった目とはまた違う、愛おしい人を見るような、そんな風に勘違いしてしまうような、優しい優しい、そんな目。 帰らないで。雪弥。あと少しだけ、このままで居たい。 「疲れたでしょう。おやすみなさい」 くしゃりと前髪を撫でる骨ばったその手は、俺の温もりなんてこの部屋に捨てて、数十分後には愛しい彼女を抱くんだろう。 「…ん。雪弥も、帰り気を付けてな」 儚い願いは叶わない。 未だうるさく主張するスマホを手に浴室に向かう雪弥の背中を見送ることしかできなくて、また、あの優しい目に絆されそうになった自分が悔しくて。 はあ、と小さく溜息をついてサイドテーブルの煙草を掴んだ。 いつまでこんなの続けるのかな。 いつになったら俺は諦めがつくのかな。 社用携帯を眺めながら、紫煙を肺に迎えては、空気に溶かす。身体を蝕む、無駄な行為。それでも一瞬の快楽を求めて手を伸ばすのは雪弥との関係にそっくりだ。 溜まったメールの返信が半分ほど終わったところで、首にタオルを掛けた雪弥がダルそうな顔をして戻ってきた。 「あーあ。明日朝一で会議。」 「雪弥は今月成績良いだろ。」 「でも会議自体が嫌です。朝、眠いし。」 子供のように口を尖らせる雪弥は毒が抜けたような顔で、まるで社内のときのような、純粋な後輩の顔。 散らばったスーツを拾い上げて身支度を整える姿を見ながら、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

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