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第5話

「も〜〜!ほんっとに腹立ちます!なんであんな奴の尻拭いで俺が始末書なんすか!」 「雪弥が頑張ってるのは俺ちゃんと知ってるから。明日話してやるよ」 「どうせ俺の引き継ぎが悪いとか言われんですよ。蓮さんしか味方がいない。かなしい。」 「俺だけじゃ足りないってか。おい」 約束の金曜日。 結局俺も雪弥も仕事が終わらなくて気付いたら社内には2人だけになってた。 もう良いとこで切り上げないとせっかくの週末が潰れるなって話して、いつもの居酒屋へ。 ものすごいペースでビールやらハイボールやらを煽る雪弥に苦笑いしながら、社内の愚痴に耳を傾けた。 もともと雪弥は仕事が出来るタイプではないし、新入社員の頃は温厚なこの俺が何度かブチ切れたくらいに要領が、悪い。 学生時代運動部だったので気合いあります!ってそれだけでうちの営業部に配属されてきたときは、弊社人事の適当さに頭を抱えたのを覚えてる。 でも、それが今じゃ顧客数も売り上げもトップだもんなあ。やっぱり運動部の気合いはすごい。 「蓮さん!聞いてます?」 「聞、いてるよ。お前、外だぞ。」 実際、聞いてなかった。 数年前からだいぶ顔付きも大人っぽくなったなあ。そんなこと考えながらテーブルの向こうの雪弥の顔を眺めてたら。 ハイボールのグラスを片手に俺の隣にずいっと迫ってきた雪弥が、今にもキスするんじゃないかってくらいに顔を近づけてきた。 「外ですね。外じゃ、蓮さんは可愛い顔してくれないですもんね。」 色素の薄い猫目。スッと通った綺麗な鼻筋。 いくらキスしても、繋がっても、俺のものになる事なんて、一生有り得ない。 ああ、遠いなあ。 平気なふり。大人なふり。手元のグラスに視線をずらしながら苦笑いした。 「飲み過ぎだ。そんなんで彼女のとこ行ったら鬱陶しがられるだろ」 なんて。俺も相当酔ってるな。 今日は朝まで一緒に居れるかの確認を取りたいだけ。 アルコールで体温が上がってる雪弥の手が、腰に回って脇腹を撫でた。 こんな距離に居るせいで、いつも以上に雪弥の香水が強く香る。 「あれ。蓮さんが俺の女の話振ってくるなんて珍しいですね。嫉妬?」 「別に。どうでもいい。」 「ほんとに、可愛くない人ですね。」 わざとらしくほっぺを膨らませる仕草を見せながらも、実際は余裕綽々なんだろう。残ったハイボールを一気に煽った雪弥が耳元で囁く。 「今日は蓮さんと一緒に居たいです。俺んち来ませんか?」 熱っぽい雪弥の声色に、まんまと絆される。 この、人ったらしが。

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