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第7話

情事後。 ベッドに腰掛ける雪弥の背中を見ながら、煙草を吸ってたら、スマホに視線を落としたままの雪弥が「ひとくち。」と呟いた。 だるい身体を起こして後ろから抱え込むようにフィルターを口元に寄せる。 「ん。ありがとうございます」 深夜の静寂の中、ジッと煙草の燃える音が聞こえた。 汗かいたし、運動したし、もうすっきり目も覚めた。シャワー浴びて少し飲み直そうかな。なんて思ってたその時、 「蓮さん。俺、彼女と別れる」 ……え? 依然手元のスマホから目を離さない雪弥が何でもない事のように破局を伝えてきて、一瞬本当に息が止まった。 別れるって、彼女と?彼女と別れるって言った? てかよく見たらスマホゲームじゃねえか。今それする?絶対必要?前から言ってんじゃん。やりたい事、やらなきゃいけない事をきちんと分別した上で優先順位を付けて行動しろって。今はまだ若いから量と時間かけて売り上げ作れてるけど、いつまでもそうじゃなく、そろそろ質とか効率を考えてだな、いや、待って、俺。動揺し過ぎ。 てか、 「突然だな。喧嘩でもした?」 なんか勝手に舞い上がったけど、 「いや、そういうんじゃないんすけど。」 別れたからって 「まあ仕事忙しいし、切羽詰まるのも分かるけど。あんま投げやりになんなよ」 雪弥が俺のものになる訳じゃない。 「そうじゃなくて。」 ゲームオーバーの画面のまま、スマホをベッドに投げ捨てた雪弥が、俺の持ってた煙草を奪った。 それを吸うわけでも無く灰皿へ。 背もたれにもたれる俺に跨った雪弥がいつもと違う真剣な顔をする。なに。 そんなの、期待すんじゃん。 「もうこういうの辞めませんか?俺じゃダメですか」 「な、に。どういう意味…?」 頭では理解が及ばないのに今ものすごく嬉しいことを言われた夢みたいな気分で、大人になってから初めてってくらいにぼろぼろ涙が出てきた。 まじか。雪弥、ほんとに? 「彼女と別れます。そしたら、俺と付き合ってください」 31歳、夏。 プライド捨ててセフレに成り下がってた後輩と、幸せになれるかもしれません。

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