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第8話
ベッドに横たわった蓮さんが、浅く息を吐きながら「飲み直すかー」なんてボヤいてる。
俺は独り言のそれに返事をすることもなく、大して興味もないスマホゲームのアプリを立ち上げた。
終わったら、帰らなきゃないような。
毎回そんな感じがするから。
昔から俺は、よくモテた人生だった。男からも女からも。
スポーツ全般が得意で、勉強はできなかったけどまあ顔も良いし、人から好かれた。
特に苦労することもなく大学生活もエンジョイして、就活。
いや、もう、それはそれは焦った。
正直気合でなんとかなる系の営業職は頭悪くてもなれると思ってたからね。甘かった。
エントリーシートどんだけ送ったか分かんないし、最終まで行って落とされたり、そりゃあもう、荒れた荒れた。
そんな時にぎりぎりで内定もらったのがこの会社な訳で。
入社してすぐ社会の荒波に揉まれまくってああこのままこの波に飲まれて死ぬのかなってくらい忙しかった日々の中で、ちょいちょい気に掛けてくれてたのが蓮さんだった。
担当部門が全然違うから一緒のプロジェクトになることは無いにせよ、年次が上の蓮さんは根回しなんかして俺の仕事をやりやすくしてくれてたのを、後になって人伝いに聞いた。
とにかく蓮さんは優しかった。
そりゃあめちゃくちゃに怒鳴られたこともあった、けど。
まあでも、基本は優しかった。
優しくてカッコよくて、同性とか関係無いくらいに、いつの間にか俺は蓮さんが好きなんだと気づいた。
それが、どうしてこんなことに。
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