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第9話

始まりは多分、1年前の忘年会。 それまでにも何度か、あれこの人俺のことそういう目で見てる?って思うことあったけど、決定的なのはあの日だったと思う。 12月に入って、部署ごと、客先ごと、若手で集まったり、逆に年次上の先輩方のお世話係で呼ばれたり。 そりゃあ、もう、毎日のように酒酒酒でかなり多忙だった。もちろん仕事納めまでにやる事も山積みなわけで。 そんな中、社内全体の一番大きな忘年会。 これが終われば今年は終わり。 全員で定時で上がって指定の会場に向かい、営業所長の有難いお言葉を聞き、わざわざ本社から暇つぶしにやってきた部門長の有難いお言葉を、、、聞いてたつもりが俺は壁に寄りかかって寝てた。 気づいた頃には会は終了。隅の方で寝てた俺は二次会のご案内を受ける事もなく誰もいない会場で目を覚ました。 「うわあ、これで今年が終わりとは…」 やるせねえ。いや、二次会行きたかったとかは1mmも無いけど。 脱ぎ捨てたジャケットを羽織って緩んだネクタイを締め直すと、想像以上の吐き気が込み上げてきて、俺は慌ててトイレに走った。 「あれ、雪弥?」 「え、蓮さん。もうみんな二次会行ったんだと思ってました。」 「うん、二次会バックれようと思って全員タクシー乗せて最後に忘れ物ないかなあって見にきたんだけど。」 「俺が忘れ物でした」 「なんだそれ」 気持ち悪い…。完全に飲み過ぎた。かなりふらふらの状態でトイレから出ると見覚えのある顔がこっちを見てて、ちょっとヨレっとした蓮さんと鉢合わせた。 結構飲んだなーなんてぼやく蓮さんの横顔からは、全く酔いは感じられない。 この人、毎回思うけどほんとお酒強いなあ。仕事中とは全然雰囲気が違う、毒の抜けたようにヘラっと笑う顔に、同性ながらときめいてしまった。俺もよく言われるけど、この人もめちゃくちゃ顔が整ってる。蓮さん、結構女子社員から人気あるんだよなあ。本人は完全に無視してるけど。 社内でそういうのとかダルいのかな。なんて。 酔った頭は情報を整理する能力を失ったようでつらつらと思考が羅列する。 「飲み過ぎだろ。顔、真っ赤。」 ぼーっとその綺麗な顔を見上げていると、呆れたように笑った蓮さんがやれやれと腰を抱いてきた。よく酔っ払い同士がやる腕を肩にかつぐとかじゃなく、まるで女性をエスコートするように、自然と腰を抱いてきた。蓮さんが、酔っ払った俺の、腰を抱いてきた。 「れんさん…?」 「ん?家教えて。送ってくから。」

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