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第10話

「おい、着いたぞ。ここお前んちだろ」 「ん…分かってる…わかってる、けど」 もう歩けない。力が入らない。 ため息を吐いた蓮さんがタクシーの人にやっぱりここで2人降りますって精算するのが見えて、先輩にこれは流石にまずい、と思いながらも体は動かない。 タクシーのドアが開いて、寄りかかってた俺は真冬の外に転げ落ちた。 「おい、嘘だろ。部屋まで寝るなよ」 「蓮さん鍵、これ…」 「お前年明け覚えてろよ」 エントランスを抜けてエレベーターに乗り込むと、蓮さんは少女漫画のテンプレみたいに綺麗な顔を歪めながらネクタイを緩める。 それ見たら、なんか分かんないけどムラムラしたものが込み上げてきた。 やばい、止まれ俺。まじで年明けからの職場が無くなるぞ。 「蓮さん、送ってくれたお礼」 「は…?ちょっ、雪弥…っ」 いわゆる壁ドン。 キレるかなあと思ったら、蓮さんは怯えながらも期待した目で俺を見つめるもんだから、名ばかりの理性はアルコールの波に連れ去られた。 嫌がってる「フリ」でしょ? 俺のこと好きなくせに。 余裕ぶんなよ。 アルコールに火照る蓮さんの首筋に舌を這わせたら、予想外のヤラシイ声。 おふざけのつもりだったのに。 スイッチ入っちゃったじゃん。

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