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第21話

1年の締めくくり。忘年会。 ガヤガヤと騒がしい会場には昨年同様本社のお偉い様達も揃って、それぞれが輪を作って賑わっている。 雪弥の姿を探したけれど、下っ端のあいつは忙しく動き回りながらも酒を飲まされたりしてて、なかなか声をかけるタイミングは無さそうだ。 雪弥と家の鍵を交換した日以来、次々に降ってくる業務に埋もれて今日の今日までほとんど会話も無かったし、会う時間を確保できるわけでも無いのに連絡をするのも気が引けて、結局今日を迎えてしまった。 もちろんクリスマスも無し。雪弥にいたっては、最悪なタイミングでインフルエンザにかかった上司のフォローで取引先への訪問オンパレードだった。 同じ卓の女子社員グループに適当に会話を合わせて、卓上のビールを煽ると、ああやっと今年も終わるなあなんて感慨にふけった。 何となく心に余裕があるのは年末の大仕事を終えた安心感。それから、 「あっ、蓮さんここに居たんですね!」 「おお、雪弥。お疲れさん」 去年とは違う関係で雪弥と年を越せるから。 俺と女子社員の間に無理やり割り込んできた雪弥はこっちを向いて口を尖らせてるけど、その向こう側でピンク色の視線が雪弥に集まってる。 一応行事だからか、いつもより良いスーツを着て髪も整えてる雪弥は俺から見てももちろんかっこいい。もともと女子人気が高いのは本人も気付いてるはずだけど。 「蓮さん楽しそうですね」 「別に楽しくは無いですよ。雪弥さんは忙しそうですね」 「下っ端は愛想振りまくのも仕事なんで。蓮さんは女子の愛想を一身に受けるのが仕事ですもんね」 「なんだよ、めんどくせえな」 アルコールで頬を赤らめた雪弥は小声で文句を垂らしつつ必要以上にべたべたとくっ付いてくる。 やめろやめろ。一部の女子を腐らせた女子が違う色の視線を送ってきてんだろうが。 変な噂立つだろ。 「蓮さん楽しそうだし俺もうあっち行きます」 「何キャラなの、今日」 「…もういいです。俺二次会行かないですけど蓮さ、」 なんなんだ。酔っ払いか。 言いながら若干涙目にすらなり始めた雪弥が上司に呼ばれて、物言いたげな顔しながら引っ張られていった。 愛情表現が分かりやす過ぎる雪弥のせいで、なぜか俺が無愛想のような扱いを受ける。おかしい。 まあ、その愛情のおかげで俺は、付き合い始め初期の不安から解放されたんだけど。 愛されるって、良いなあ。なんて、思ってみたり。 この後どうしますか?って隣からの誘いをお断りして、雪弥にメッセージを送った。 (俺も二次会は出ないから先に帰ってる。 雪弥んちでいい?)

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