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見えないラインのあちら側
布団を被った俺に背を向けて、ベッドに腰掛けてスマホをいじる雪弥。
さっきまで俺を抱いた体温高めの素肌が、今はこんなに、遠い。
会社ではほとんどタバコを吸わない雪弥が、俺との情事後は必ずと言っていいほど煙を吐き出していて、それがなんだか無性に胸を締め付けた。
関係を持てば何かが進むと思ったのはあまりに軽率な考えだったようで、体を重ねるほどに、こんな曖昧な関係が終わることばかりを恐れて、俺は雪弥の顔をまともに見ることができなかった。
骨張った指先に、男のくせに線の細い肩に、いたずらに肌に吸い付く唇に。
気まぐれでも俺との時間を過ごしてくれる雪弥に、
捨てられるのが怖い。
そうして目を瞑って、部屋を出ていく気配に雪弥の背中を見送っていた。
*
「ん。吸う?」
「いや、大丈夫です」
「雪弥、最近タバコ吸わなくなったよな」
「俺もともとそんな吸わないです。」
(終わってすぐ帰るのは嫌だったし、寝たふりしてる蓮さんがいじらしかったから。
なんだかんだ、あの部屋に残る理由が欲しかったんです。)
「今はもう蓮さんが居るからタバコは要らないんです」
「なんだそれ。」
タバコなんかよりももっと有害な俺の愛で、蓮さんを侵してあげる。なんてね。
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