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自己満足の忠誠など必要ない。
昼休み。暑くも寒くもない社内。空気は悪め。慌ただしく仕事をする人たち。もう一度言おう、今は昼休み。
「蓮さんお昼なのになんで仕事してるんですか」
「お前入社何年目だよ。12時だからって理由で飯食ってるやつ、この会社で見たことあるか?」
いや、それは無いけど。
でもお昼休みはお昼休みです。上が率先して休憩を取らないと部下は休めません。そうやってどんどん有給が取りづらい環境になって、社員のパフォーマンスも落ちるんです結果、会社にとっても不利益なんです。なんて、コンプラ委員よろしく世を正すつもりも無いけどさ。
俺は蓮さんとランチタイムを過ごしたい。ただそれだけ。
俺と蓮さんの席は結構遠めでフロアの端と端だから、近くの適当な椅子を引いてデスクに張り付いてる蓮さんに話しかける。
まあほとんど無視だけど。
「雪弥、急ぎの仕事ないならお前は飯行ってこいよ」
「やです。蓮さんと食べたい」
「うるさい。今俺は忙しい。こいつの締め切りが迫ってる」
「それいつまで?」
「昨日」
もう過ぎてんじゃん。じゃあ諦めようよ。
依然パソコンから1mmも目を逸らさない蓮さんが至極怠そうにキーボードを叩いている。会社にいる時の蓮さんは目付きが悪くて顔が怖い。いつも怒ってる顔してる。
これだから、ブラック企業に魂を抜かれた社畜は。
ちらっと覗き込んだ画面は俺が見てもよくわからない内容で、蓮さんの部門はデータ管理が多くて難しい。今日は諦めて明日また出直そうかな、そう思って椅子を戻そうと立ち上がると、くいっと袖を掴まれた。
「暇なら昼買ってきて。なんでも良い。ついでにお前の分も」
目線はパソコン。でも声はちょっと優しめ。
ぶっきらぼうに財布を差し出す蓮さんが俺にはどうしようもなく愛おしく見えて、財布を受け取るついでにわざと手を握ったらめちゃくちゃ怖い顔で睨まれた。
気にしない気にしない。だって今日は蓮さんとランチタイムを過ごせるんだもん。
半日ぶりの外の風が気持ちいいなあなんて上機嫌で向かった購買は、蓮さんが好きな卵サンドが売り切れてた。それは困る。コンビニはしごして戻ったオフィスでは、俺の帰りを待つ忠実なワンコ。もとい、蓮さん。
「おー、ご苦労。立派におつかいできたな」
…あれ。もしかして、俺が蓮さんのワンコ?
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