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愛の逃避行みたいで愉快
水曜日。早朝。
なんだか最近寝つきが悪くて、体を起こしたのはもう何度目か分からない。
時間を確認したら、これから寝直すにも微妙な時間で、仕方なくぐーっと伸びをした。
まだ覚醒しない頭でスマホを確認すると、社用の方に雪弥からのメール。受信時刻はてっぺんを超えてる。
俺はccだから適当に目を通しながらプライベートのスマホで雪弥にメッセージを送って、だるい体でベッドから抜け出した。
洗面台で顔を洗って歯を磨いて、キッチンに寄ってタバコをくわえる。リビング空調のリモコンを探していたところで、ソファに不自然なかたまりを発見した。
え、まじか。なんでこいつここで寝てんの。
テーブルには空いた缶ビールとコンビニの弁当。
床に落ちてるスマホは、さっき俺が送ったメッセージの受信を知らせるアイコンが光ってる。
「ん…あれ、蓮さん?」
「おはよ。お前何してんの。」
「えっと、昨日仕事終わってから蓮さんちの方が近いなと思って帰ってきて、寝てました」
なら声掛けろよな。
こんなとこで寝たら風邪引くだろ。
ネクタイを緩めただけのスーツ姿の雪弥は、ほとんど開いてない目でこっちを見ながら手招きして俺を呼ぶ。
大して吸ってないタバコをテーブルの灰皿に押し付けてソファに座ると、雪弥がごろんと膝に寝転がってきた。
その顔は本当に疲れてて、もう文句言うのも可哀想だし一旦寝室に戻ってタオルケットをかけて、また膝枕の体勢に戻ってやった。
すうすう寝息を立てる雪弥が俺のお腹に腕を回して抱きついてくる。顔にかかる前髪を撫で付けてやると、うっすら口元が笑みを作って俺の名前を呼んだ。
「蓮さん…いい匂い」
「お疲れさん。起こしてやるから寝てろ」
「ん。蓮さん、好きです」
「俺も。おやすみ」
あんなに眠れなかったはずなのに雪弥の顔を見てたら睡魔が押し寄せてきて、スマホのアラームをセットして俺も目を瞑る。
次に目が開いたのはアラームの1時間後。
雪弥の手に握られた俺のスマホから、こいつが勝手にアラーム止めたなと推測して、夢うつつで甘えてくる雪弥を叩き起こした。
束の間の休息から一変、ダッシュで向かった会社に着いたのは定時の15分後でした。
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