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保護者ですから

「大変申し訳ございません。早急に対策案出します」 やらかした。 目の前の上司が顔を真っ赤にして怒鳴り散らして俺のデスクをがんっと叩いた、少し遠くの方にいる蓮さんと目が合う。 テンパる頭の中でこれからの立ち直し方を考えるけど、怒鳴り声が邪魔してうまく回らない。 もうそんな怒んないで。もう分かってるから。分かったから。 「申し訳ございません。ですので…」 あーもう!! こっちがどんだけ話進めようとしても、脳みそ沸騰したこのおっさんは、俺の弁明なんて聞いてくれない。 さっきから同じこと繰り返してるこの人に、悪いのは自分なんだけどちょっとイライラしてきて、スマホに着信があったふりして席を離れた。 オフィスを出て、そのままエレベーターに滑り込んで1階。 あー、戻りたくねえ。このままバックれてえ。 「お、雪弥。抜け出せたのか」 「蓮さーん。もう俺だめ。会社辞める」 ぽーん。なんて間抜けな音してドアが開いた向こう側。 缶コーヒー片手にエレベーターに乗り込もうとする蓮さんと鉢合わせて思わず弱音を吐いてしまった。 笑いながら俺の肩を叩く蓮さんはそのまま一緒にエントランスの端に来てくれて、来客用の椅子に腰掛ける。 「ほら、やるよ。」 「ありがとうございます。」 「雪弥はな、忙しくなると目の前のことしか見えなくなるから。それがお前の良いところでもあるし、使いこなせない上長にも問題あんだよ」 「…はい」 「でもこうやってその場を逃れようとするのはお前の悪い癖。ちゃんと戻っておっさんの言い分も聞いてやれ」 ごもっとも。反論の余地もない。 一口飲んだコーヒーを手渡して、スマホを弄りながらそう言う蓮さんに、ムカムカしてた胸のあたりがすーっとほぐれていった。 俺はちゃんと見てるよ、って笑いかけてくれる蓮さんがイケメン過ぎてちょっと悔しい。 俺も蓮さんみたいにスマートに仕事ができたらな。そう思ってたのは付き合う前までで、努力家なこの人は休日返上で出社してたりするんだ。 「頑張ってこい。今日終わったら飲み行くか。」 「その後は?」 「は?」 「その後の蓮さんからのご褒美が無いなら頑張れないです」 「調子のんな」 俺の手から缶コーヒー奪い取って飲み干した蓮さんが先に立ち上がるから、仕方なく俺も後を追いかけてエレベーターに乗った。 あー、やっぱり気が重い。でも仕方ない。頑張れ雪弥。俺なら大丈夫。別に死ぬわけじゃないし。 そう腹をくくってドアが開く寸前。 大きく溜息をついた俺の腕をぐっと引いて耳元で囁く蓮さんに、なんかどうでもよくなった。 「頑張ったらご褒美。俺んちでな。」 もうほんと、蓮さんさえ居れば生きていける。

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