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なんて無謀な恋をする人
「あーあ。俺転職しようかな」
「どこに?」
「蓮さんの嫁」
「却下」
22時過ぎ。
蓮さんと二人で囲んでいるのは、お手製の料理が並んだテーブルでも無く、居酒屋のカウンターでも無い。
もう半日以上は張り付いている、会議室のでかいテーブル。
いい加減腹減ったし集中力なんてものは5時間前くらいから切れてるというのに、目の前の社畜はパソコン叩きながら資料に赤ペンで添削付けてる。
やっと終わったと思ってホチキスまでした会議資料は、あんだけ見直したはずなのに、蓮さんからあっさりデータの引用ミスの指摘を受けて怒涛のやり直しを終えた。
「おい、お前の資料だろ。手伝え」
「もうそれでいーです。完ぺきです」
「一箇所ミス見つかると他も気になんだよ。ほら、これどこから引っ張った数字?」
「んー?んー」
なんで人の仕事にそんな真剣に取り組めるんだろうか。
ついさっき、目が乾くからってコンタクトからメガネに取り替えた蓮さんが、キーボードに添えた手を止めて資料をパラパラとめくり始める。
なになに、また間違えた?
「はい、雪弥さん。ではまず自己紹介からお願いします」
「へ?」
「俺の嫁になりたいんだろ。採用面接してやるから」
わあ。蓮さんが会社でふざけてる。珍しい。
「雪弥です。26歳です。現在は営業職をしておりますのでその経験を生かして、蓮さんの嫁になったら心身ともに支えていきたいです」
「ほう。具体的には?」
「まず精神面では、蓮さんは意外と寂しがり屋だし心配性なのであまり一人にしないように常に愛のある生活を心がけます」
「へえ」
「次に身体面です。こちらに関してはかなり自信があります。と言いますのも事前調査により蓮さんの性感帯は網羅しておりますので、そこを中心的に、なおかつ、蓮さんは少々痛みを伴う刺激を好む傾向がございますので、精神面の状況を考慮した上で、より性的快感を得られるように、」
「もういいやめろ」
身振り手振りをつけながらの俺の自己PRは面接官により中断されて、ついでに手元にあったボールペンを投げつけられた。
自分から始めたくせに顔を赤くした蓮さんは、それを誤魔化すみたいにまたパソコンをカタカタ。
「お前会議の時もそれくらい流暢に話してみろよ」
「だって興味あることじゃなきゃ話せない」
実際、蓮さんの嫁になったら毎日幸せだしご飯作るのはちょっとだるいけど、ずっと一緒に居れるんだったらそれくらいはモーマンタイ。
あれ?ていうか俺が蓮さんを抱いてるんだし嫁になるとしたら蓮さんの方?
これは応相談だな。
蓮さん、今後に関わることですからそんなの放っといて家に帰りましょうよ。
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