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夢の続きをくれたのは、あなただけだったよ

仕事で、ミスをした。 最近体調も良くなくて寝不足も続いて、でもタスクは溜まって頭がうまく働かなくて。 言い訳をしようとすればそんなことがボロボロとこぼれてしまうから、全てを飲み込んでどうにか軌道修正を図った。 新人の頃はこんなことしようものなら上司に死ぬほど怒られて一緒に謝罪回りをしたけど、今の立場になればそうやって後ろ盾してくれる人も居ない。雪弥は上司に指摘されると鬱陶しそうにすることもあるけど、あと数年したら分かるんだ。 会社は数多くの人間たちで組織されているけど、実際の仕事はひとり。孤独と戦って、果てしなく遠くにある、もう感覚も忘れた達成感。生活のためだけなら、こんな辛い仕事をしてる理由もない。それでも考えるも怠くて、働く。 ああ、俺、いつまでこんなことしなきゃないんだろう。 ちょっと、疲れたな。 「蓮さん?びっくりした。連絡くれました?」 「してない。少し、顔見たくなって」 「らしくないなあ。おいで。」 ひと通りの作業を終えて、今日これ以上を求めても上手くいく気がしなくて向かった、雪弥の家。 鍵を握りしめたドアの前、なんとなくインターホンを鳴らした。 機械音のすぐ後でドアが開く、部屋着に着替えたすっかりオフモードの雪弥が猫目を丸くして驚いたって顔をして出迎えてくれた。 おいで、って招かれた部屋に入ると、ボディソープがまだ肌に馴染んだばかりの雪弥の匂い。 俺が靴を脱いでる間に玄関の施錠をしてる雪弥の後ろ姿に思わず抱きついた。 「雪弥、俺、ちょっと…」 「今日忙しそうでしたもんね。お疲れ様です。」 明確なことを言わなくても俺の声色ひとつで全部を理解して包み込んでくれる雪弥。 いつもは甘えてくるくせにこういう時は完全に切り替えて、俺の頭を抱えるように優しく抱きしめてくれる。 俺の方が年上だし、普段職場では偉そうな指導してるのにこれってどうなの?って思うけど、雪弥がそうやって俺の全てを許して受け入れてくれるのを知ってるから、こうやって甘えにきてしまうんだ。 迷子の子の手を引くみたいに俺を寝室まで引っ張って押し倒されたベッドの上で、顔中に落とされるキスに口を紡いだ。 「どうしましょう。明日も早いし、ゆっくり眠りたい?それとも、」 「雪弥、抱いて…」 「はい。とびきり甘いのを」 雪弥の提案の言葉尻に被せるようにそう言えば、ふっと笑みを作った口元がまたおでこ、こめかみ、目尻、いたるところに触れてきて、時折柔らかい舌先が熱っぽく首筋を這ったりして。 今からエッチをするというには少々イヤらしさが足りない、慈しむような安穏とした愛撫が延々と繰り返されるもんだから、焦れったくなって俺の方からネクタイを緩めた。 「抱いてって言ってんだろ…っ」 「分かってますよ。ちゃんとしてあげるからそんな焦らないでください」 雪弥のスウェットにかけた手を頭の横に押さえつけられて、またキスが降ってくる。 そんな優しいのなんていいから。めちゃくちゃに抱いて欲しい。何も考えられなくなるくらいに。そうしないと、夜が終わって明日になるのが、怖い。 「蓮さん、蓮さん。ちゃんと目開けて。」 「ん、雪弥。もうそんなんいいから…」 「俺は、蓮さんを尊敬してます。蓮さんみたいに仕事についてのアドバイスは出来ないけどさ。あんまり自分を責めないで。蓮さんはちゃんと頑張ってるし、俺は全部見てますから。こんなこと自分で言うの恥ずかしいけど、仕事中辛くなったら俺のこと考えて。俺は絶対味方だし、蓮さんのことが大好きです。」 「はっ、なんだよ、それ…」 俺の頬に手を添えた雪弥が至極真面目な顔でそんなことを言う。 その目がなんでかどんどん潤んでいくもんだから、つられるみたいに俺も目頭が熱くなって、こめかみの方に流れていく涙を雪弥の指がすくった。 相手の気持ちを汲み取ってリンクさせて、自分まで悲しくなれるこいつは、本当に優しい。 誰にも叱られない。誰にも褒められない。 出来て当然って思われてるのは、結構しんどい。 今までどうやって自分を保ってたのかが不思議なくらい、穴だらけの心に雪弥の言葉が染み込んでじんわりと温もりが広がった。 許して認めて、無償の愛をくれる人が側に居る。辛かったら大きな腕で抱きしめてくれる。 そう考えたら、もう少し頑張ってみてもいいかなって思えた。 ありがとう、雪弥。

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