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確かなことは、彼が私を見ていないという現実
(セフレ時代)
仕事が終わったのは21時を過ぎていて、タイミングよく連絡が来たから家に行って、作ってもらったご飯を2人で食べた。
あるもので、なんて言ってたくせに、ダイニングテーブルに並んだのは付け合わせのサラダまで完璧で、俺が好きなブランドのワイングラスには綺麗な赤が注がれて。
グラスを持ったままソファに移動して、適当な映画を流して、隣の女が俺の肩にもたれ掛かったタイミングで、ああなんか気分じゃないなって気付いてしまった。
お風呂上がりを演出した石鹸の香り、その割に髪はゆるいカールが付いてて、まつ毛もくるんと上がってる。
男だったら、昔の俺だったら、こういうの好きだったろうなあ。
雪弥くん、あたし眠くなっちゃった。
細い腕が首元に絡まってきて、ああこれは、抱き締めてあげる雰囲気だ。でも別に彼女でも無いしな。
なんか、メンドクサイな。
「ごめん、ちょいトイレ」
あからさまに顔をしかめた女の頭に軽く手を置いて、スマホ片手に離脱。
ここ最近、履歴から探すのはひとりだけで、最後に会ったのは1週間前。
リダイヤルに応答はなかったけどすぐに折り返しが来るだろう。
学生時代から不特定多数の子と遊んだりして、若気の至りだと思ってたその遊びはオトナになってからも抜け出すことは出来なかった。
真面目に働くほど、不誠実なことをして均衡を保とうとしてる。
つまり俺はそういう最低な男だったって訳だ。
「上司から呼び出しだ。悪いけど帰るね」
着信を知らせる画面を見せて、得意の笑顔でキス。
お手製の困り眉はどうしたの?
不本意そうに顔を歪めたその子にすぐに背を向けて部屋を出た。
甘んじて受け入れているのはそっちだろ。
男を見る目が無かったね。
すぐにタクシーに乗る気分にもなれなくて、ほろ酔いの身体を冷ますように大通りをゆっくり歩いた。
夜風を浴びながらもう一度繋ぎ直した電波の先で、いつも通りのその声にどこか安心している自分がいる。
「蓮さんお疲れさまです。もう家?今接待が終わったところで、」
大事にしてあげたいとかそんな優しい気持ちじゃ無くて。
でも何故か蓮さんに執着してる。
会ってヤるだけじゃなんかが足りない。
束縛も嫉妬もしないセフレなんて最高なはずなんだけどなあ。
もっと分かりやすく欲しがって欲しい。
「蓮さんち行ってもいいですか?」
(溺れてるのは俺の方だったりして。)
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