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さいごがきみでよかった

『18時には退社しましょう! 家族サービス、自己研鑽に励みましょう!』 ノー残業デーとは名ばかりの水曜日。 律儀にも18時ぴったりに空調がストップした湿気たっぷりのオフィスで、ここに残ってるのは俺と蓮さんだけ。 ふたりの席はそもそも部署が違うから島も離れてるけど、しーんとした空間でさっきからため息と舌打ちが定期的に送られてくる。 「蓮さーん。終わりそうですか?」 「んー。んー、あ、待って電話。…はい、お疲れ様です。すみません、ちょっと時間かかってまして…。え?修正?」 うーん。だめそう。 俺の方はとりあえず急かされた分はさっき報告終わったからもう今日は良いかなあって感じなんだけどなあ。ここ暑いし。 なんか蓮さん長電話っぽいしコーヒーでも買いに行こ。 さっき上司に送ったメールに返信が来たけどそれは開かずに外に出た。 これで直し入ってたらだいぶ萎えるな。 昼間の喧騒が嘘のように静まり返った社内は、なんだか夜の学校みたいな独特な雰囲気があって、まばらに残ってる人たちの話し声が微かに聞こえた。 「あっつ…」 自販機でコーヒーを2つ買って、戻る前に社内唯一のオアシス、もとい、喫煙室へ。 そういえば少し前に業務中の禁煙を推進する提案があったけど、力のある喫煙者のおかげか、そんな話も聞かなくなった。 体に悪いのは分かるけど、ストレスフルな環境で逃げ場埋めるのもどうかと思う。 煙草に手が伸びちゃう職場をどうにかしてほしい。 蓮さんの平日吸ってる煙草の本数エグいもん。 それに比べて土日はあんまり吸わなくなったのが実は嬉しい。内緒。 セックスの後はよく吸ってるけど。 「あれ、雪弥だ」 「びっくりした…。大丈夫だったんですか?電話」 完全に1人だと思ってぼーっと煙を吸ってたら、急に声かけられてまじで一瞬息が止まった。 隣に並んだ蓮さんからは体温で馴染んだいつもの香水の匂い。 「うん。修正は入ったけどそのおかげで締め切りが伸びた。もう今日は帰れるんだけど、雪弥は?」 「俺は蓮さん待ちでした。はい、コーヒー」 「ははっ、そうだったか。ありがと。さっき固定にお宅の部長から電話あったけど?」 「え、まじですか?」 「うそ」 もおおおおお!可愛いかよ!! 会社で、スーツで、完全に外用の蓮さんがいたずらっ子みたいに笑う顔にめちゃめちゃグッときた。 今日絶対抱こう。 「どっかで食べてく?」 「いや、とりあえず俺んちで蓮さん食べます」 「なにそれ」 (セッまで書けなかった。つづきます)

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