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第8話 夏 -1-
―……変化は突然、若葉萌ゆる初夏にやってきた。
「―……この教室で聞くよ。話しって、何?」
「ぁ、あの、ね……」
告白シーンに居合わせてしまったのだ。
「私、倉房くんの事が好きなの。……付き合って、欲しいな……って……」
しかも、幼馴染の壱弥の……! ジーザス!!
俺、カーテン裏に居るんだけどな?
見えない? 気づかない? 感じない?
とりあえずカーテン裏でじっとしている。
動けない。僅かな"揺れ"さえも許されないこの状況……。
じっとりしとした嫌な汗が全身から噴出してくる。
そして俺が汗をダラダラさせても、外の二人の会話は進み、告白した女の子は壱弥の
「ごめん。好きな子いるから、有沢とは付き合えない」
の言葉でアッサリお断りされた。
―……マジか。
俺は見えないが、目の前の事実に衝撃を受けた。
"有沢"とは"有沢 詩織"の事で、彼女は一学年中で三本の指に入る美少女である。
それを壱弥は「好きな子がいる」と断って……
……ン? "好きな子がいる"?
「~~~~~~!?」
俺は有村の告白の言葉より、壱弥の言葉に声を出しそうになった。
慌てて両手で口を塞ぐ。そうしながら、音が遠くなって、視界が狭くなる……。
お、俺、"初耳"ですけど!? 壱弥に好きなヤツがいるなんて、初めて知った。マジかよ!?
「―…………」
……そうして俺がぐるぐるとしている内に、遠くでドアを引いて二人がこの教室から出て行く音がした……
……気がした……。
ショック過ぎてか、記憶が……曖昧なんだ。
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