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第9話 夏 -2-

―……それから俺は何故か幾度か壱弥がお気に入りのカーテンのある教室で告白されるシーンに居合わせ、彼が「好きな子がいる」と断るのを聞いている。 そして、気が付いてしまったんだ。 女子の告白を聞く度に、壱弥が答える「好きな子が居る」事にショックを受け、「好きな子が居る」で"止まっている"事に悦ぶ自分に……。 それが「付き合っている子がいる」に変化しない事に、僅かに口角が上がる。 今日もそれに変化は無かった。 同性の自分が"そこ"に嵌れるわけない……のに、俺は壱弥の片恋の現状に満足してしまうんだ……。 「……俺って、ヒドイ奴だ……」 告白して振られる子と、壱弥の片恋の現状に安堵している。 そして、カーテン裏に潜む事を止められない。 自分が先に来て、カーテンに包っている。告白劇は……後から勝手に起きている。 そう処理して、俺はこのカーテンを相変わらず一番愛用している。 少し厚手のカーテン。最初は無邪気に……でも、今は……その無邪気さから半分以上遠く離れてしまった。 何とも暗い薄ぼんやりとした気分が、口から溜息ではなく鼻から外に出た。 俺は酷く、ずるい。 だから今日もカーテンの裏に居る。 ―……小さく囲まれた、俺の世界に居る。 俺は臆病で、なかなか他に世界の領土を広げたり、移動する気にはならないのだ……。 だって、この空間がとても温いから、変化したくないんだ……。 壱弥と俺はまだ、この空間で一緒にいれる……から。 無理なんだ。

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