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第7話 春 -7-

……闇の中、薄紅の花弁がハラハラと舞い散っている。 咲いて少しずつ散って、地面に落ちてく。 そして花が無くなって、新緑が生まれて葉が落ちて……また、花が咲く。 この夜桜は……俺の恋心みたいだ。 春のどこか温い空気の中を、ハラハラと……ハラハラと……。 心に咲いた想いを、散らせて、無くなったら新たな気持ちを芽吹かせる。 俺も、壱弥相手にそう、なるんだ…… …………多分。 「……春の夜って温いな」 「夏前って感じがするなー」 "夏前"か……。壱弥はそう感じるんだな。でも俺は…… 「……ぬるま湯に浸かってるみたいだ……」 散る夜桜を見ながら呟いた。 「俺、ぬるま湯好きだよ。いつまででも浸かってたい」 ―……そう、いつままででも………… 壱弥と一緒に…………この温い春の夜に止まっていたいんだ……。 そして俺は想像の中で、闇に散る薄紅の中で壱弥の背中に縋った。 前を向き、振り向くことの無い壱弥の背に頬を寄せて。 「……桜、散っちゃうなぁ……、壱弥」 「んー。まぁ、そろそろ散る時期だからなァ……」 現実では無理だから、せめてもと夢に遊んだ――……

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