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第2話
目が覚めると、自分が両腕を上げて立った状態であることに気付いた。
殴られた腹の痛みに顔をしかめながら、ほとんど無意識のうちに腕を下ろそうとすると、ガシャンと音がして腕が固定されていることに気付く。
上を見ると、両手首は手錠で拘束され、天井からぶら下がった太い鎖につながれていた。
「なんだよ、これ……」
自分が置かれた異常な状況に俺は思わずそうつぶやく。
異常なのは手錠だけではない。
天井から吊るされた俺は一切洋服を身につけていない、全裸の状態だったのだ。
わけがわからないなりに少しでも自分の置かれた状況を把握しようと、俺は辺りを見回してみる。
俺が吊るされている部屋は白い壁紙の窓のない部屋で、家具は馬鹿でかいベッドとキャスターが付いた大きな鏡があるだけだ。
壁際にはガラス張りのシャワーとトイレがあり、ちょうど例の男がバスローブを着て出てきたところだった。
「ああ、目が覚めたのか」
「……俺をどうするつもりだ」
借金を体で払えということだったから、目が覚めたら内臓の一つや二つなくなっているかと思ったのだが、どうやらそういうわけではないらしい。
こんなふうに裸にむかれて天井から吊るされていたら、どういう意味の「体で払え」なのか想像がつかなくはないが、できれば男の口からそうではないと言って欲しかった。
「なに、ちょっと私の趣味に付き合ってもらおうかと思ってね」
「……」
男を全裸にして手錠で吊るすような趣味といったらもう、SMしかないだろう。
臓器を取られるのとどっちがましだったのかは、正直微妙だ。
どっちにしろ俺にはもう、男のS趣味が相手をうっかり殺してしまうほど激しいものでないことを祈るしかない。
「まあ、小坂くんにとっても都合のいい返済方法なんじゃない?
好きだろう? SM」
「……はあ?
そんなわけあるかよ」
「おや、自分で気付いてなかったのかい?
対戦相手に殴られてる時、あんなに恍惚とした表情をしているのに」
男の言葉に、俺はドキッとする。
実は以前同じジムの奴に「小坂って殴られる時、なんかエロい顔してるよな」と言われたことがあったからだ。
「……あれは単に試合でハイになってるだけだ」
そう、たぶんそれは試合という特殊な状況で気持ちが高揚しているだけなのだ。
Mのように、殴られて痛みを感じることでハイになっているのではない。
「そう?
まあ、試してみればすぐにわかるよ」
そう言うと男はバスローブのポケットから黒の革手袋を取り出して右手にはめた。
「見えるところに跡がつくと君が困るだろうからね。
ボクサーで見えないところというとトランクスの中くらいしかないから、スパンキングにしておこう」
「スパンキング?」
「まあ簡単に言ってしまえば尻叩きだ」
男の言葉を聞いた俺はうんざりした気持ちになる。
確かに尻なら多少腫れても外からはわからないが、はっきり言ってそういう問題ではない。
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