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第10話

愛さんに会いミナと別れた帰り道、俺は一人で薄暗くなった細い道を歩いていた。後ろを誰かがつけてくる。初めは自意識過剰すぎと自分を嘲笑っていたが、どうやら、これは本物のストーカー?というか、不審者に付けられている… 振り返ると、黒いフードを被った男の人がいて俺のことを観察するように見ていた。俺は、その人の方に歩み寄った。彼は逃げる事もせず、俺の方は腕を伸ばしてきた 「君、馬鹿なの?」 「……もうすぐ夜だろ?愛してくれよ」 「お金とるんでしょ?」 「あぁ、後腐れなく別れるためにな」 「……君の特別になりたいな」 特別なんていらない…。昔は何もなかったから何も考えずに済んでいた。普通の家庭を知り、兄の優しさを知り、失った悲しさはもう味わいたくなかった。それが理由で俺は一度体を売った相手には関わらなかったのだ。 特別な存在が出来てしまえば、失った時の悲しさは死にたくなるほどだろうと思うのだ。 俺の父がそうだったように……。

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