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 太陽の光がさんさんと輝き、静かな昼間が続く。  けれど、どんなに明るい日差しの中でも春菊の気分は落ち着かなかった。それはまるで、これから起こる出来事を感じ取っていたのかもしれない。 「奥方様、この先は困ります!!」 「何が困るのですか。息子がどのように暮らしているのかを知るのは母として当然のことでしょう?」  春菊は、甲高い女の人と、その女性を制するための侍女の焦り声がこちらへ向かってくる足音と共に聞こえ、寝間から起き上がった。  体調は世話してくれる侍女と谷嶋のおかげでずいぶん良くなり、今では広い屋敷の庭を隅から隅まで軽々と歩けるようになっていた。  ――にも関わらず、塞ぎがちになっているのは、谷嶋に捨てられるかもしれないという思いと、離れたくないという想いがあったからだ。  おそらく、谷嶋は自分が動けるようになればすぐに捨てるだろうと、春菊はそう考えていたからであった。  春菊が傍らに置いてある反物を肩にかけたと同時に目の前の:障子(しょうじ)がコトリと開いた。  目の前では、いつも春菊を世話してくれている侍女と、肩で呼吸する見知らぬ女性が立っていた。  ――いや、違う。その女性はどこかしら雰囲気が谷嶋に似ている。春菊はそう思った。 「私が知らないうちに、こんな得体の知れないのをどこで拾ってきたの!! 母に相談もしないで!!」  春菊を見るなり、大声で怒鳴る女性の目は血走っている。母と名乗るその人物は、やはり谷嶋の親族のようだ。

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