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どうりで雰囲気がどこかしら似ているはずだ。
「奥方様!! この方は!!」
「お黙りなさい、侍女ごときが!!」
侍女が春菊と女性の間に入り、制止させようと試みるものの、女性は怒りっぽいようだ。侍女を見下し、進路の邪魔になっている彼女を跳ね除けた。
「いいこと? 匡也は、さる立派なお屋敷の方からお抱え医師になるよう説得されているような身の上です。貴方みたいなのを囲っているなどと知られれば、世間体が悪くなる一方ですのよ? 貴方はここから早々に出て行くべきです。そうは思いませんか?」
(ああ、俺はやっぱり匡也さんの邪魔になっているんだ……)
もうだいぶ身体はよくなったというのに、呼吸困難になったように胸が苦しい。恐れていたことが現実になったのだと、春菊は思った。
絶望を感じ、唇を噛み締めてただただ項垂れる春菊に谷嶋の母親だと名乗る女性は止めをさしてきた。
「あの子にはいい縁談がきているんです。三日後までに出て行ってちょうだい」
女性はぴしゃりと言い放つとすぐに春菊の前から立ち去った。彼女を見送るため、侍女も後を追う。
春菊以外誰もいなくなったその場所はシン……と静まり返った。
「……っつ!」
ひとり取り残された春菊は胸を押さえ、悲しみに耐えるしかなかった。
谷嶋を想っているのは自分ひとりだけで、やはり彼は自分を想ってくれてはいない。
ひとつ屋根の下にいながら、手を出さなかったのが何よりの証拠だ。それどころか、彼は春菊を突き放すように寝室を別にしたのだから……。
「……っ情けなんて……かけられたくなかったっ……」
春菊は切れない涙を流し、やがてやって来る別れを感じながら一人の時間を費やした。
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