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春菊は何も考えられないまま彼の首に腕を回し、与えられた唇の感触にうっとりと目を閉じた。
口づけの熱にうっとりしていたから、春菊は谷嶋に抱きかかえられ、屋敷に戻ってきたことを気づけずにいた。
そのことに気がついたのは、明かりに照らされた部屋で柔らかな敷布団の上に寝かされてからだ。
冷たい川の水を吸い込んだ衣服を取り除かれ、あらわになる白い柔肌を見下ろす谷嶋は、ほうっと静かなため息をついた。その熱を帯びた、ため息は春菊の頬を撫でる。
春菊は愛おしい谷嶋にすべてを見られ、羞恥に見舞われた。身体を隠すように腕を巻きつけ、朱に染まった顔を伏せる。
谷嶋はそんな初々しい春菊に心奪われ、自分も濡れた反物を素早く脱ぎ捨てた。
「春菊、俺が君を抱かなかったのは君の身体を思っていたからだよ?」
谷嶋は愛おしそうにそう言うと、手ぐしで長い黒髪を梳 く。
胸が締め付けられ、何も言い返せない春菊はただただ唇を閉ざし、谷嶋から受ける熱い視線をどうにかしようと逸 らす。
口を開ければ――。
彼を見れば――。
ただそれだけで喘いでしまいそうだ。
それなのに、春菊の髪を梳いていた長い指は肌を伝い、落ちていく……。
「っふ……」
そろりと流れるようにうなじに触れられた瞬間、春菊の身体が大きく震えた。
「部屋を共にしなかったのは、身体を労 ろうとして見受けしたのに、それでもこの美しい柔肌を抱きたくてたまらなくなったからだ……。
ここで抱いてしまっては、廓で水揚げをするのと変わらないじゃないか……」
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