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「それでもっ!! それでも、俺は匡也さんに抱かれたかっ……あっ!!」  腕で覆い隠しているはずの春菊の身体――。  けれど腕の隙間に潜り込んだ谷嶋の指が両胸にある頂きに触れた。おかげで、谷嶋に『抱かれたかった』という言葉はかき消されてしまう。  本来はあまり感じられない部分であっても、谷嶋に触れられればどこでも熱を感じてしまう。  春菊は喘いでしまった声を塞ぐため、身体に巻きつけていた腕を外して両手で口を覆った。  ふっ、と笑う彼の吐息が頬をかすめる。 「もっと可愛らしい君の声が聞きたいな……」  耳元で告げられたら、もうどうにもできやしない。恥ずかしすぎて何度も首を振る。 (身体が熱い……)  春菊はみぞおちに熱が灯るのを感じて太腿を擦り合わせると、大きく膨れている自身に気がついた。 (胸に触れられたり、唇を重ねただけなのに感じるなんて……) 「んぅ……」  羞恥が羞恥を呼び、さらに喘いでしまいそうになる。春菊は、そんな初心な仕草が谷嶋を捕らえていることも知らない。  今日の午後、谷嶋が家に帰るなり侍女から母親がやって来たと知らされた時は血の気が引くほどの恐怖を感じた。  母が家に来たということは、春菊を見られる可能性があったからだ。そして常識や世間体を重んじる母はおそらく春菊を頭ごなしに怒鳴り散らすだろう。  そうなれば、控えめな春菊は何一つ反論せずすべてを受け入れてしまう可能性が非常に高かった。  春菊は自分に向けられた攻撃を受け止め、自らを殺そうとするだろう。 『自殺』という単語も頭に過ぎったのはあながちハズレでもなかった。

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