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自分が匡也に抱かれることは有り得ない。自分は両親の借金の過多に売られた子だ。同情されこそすれ、恋愛感情なんて持たれるわけがない。
けっして……。
それなのに、夢の中の出来事が本当にあったことだと勘違いしてしまいそうな自分がいる。なんて愚かだろうか。天地がひっくり返ったってそんなこと、起こりはしないのに……。
「っく……っふぅ……」
勘違いするなと自分にそう言い聞かせれば、その分だけ、春菊の胸が締め付けられ、痛んだ。
穏やかな朝の光が、春菊の貧弱な身体を包み込むのに、それでも全く清々しい気持ちにはなれず、目からは涙が溢れてくる。
春菊はとうとう耐えられなくなり、泣き声を殺して泣いた。シミがつくからいけないと思いつつ、それでも、大好きな彼を想うと、涙が止まらない。
「うっ、ふぅっ……匡也さん……。匡也さん……」
何回、彼の名を呼んでも、けっして姿を現さないのは知っている。彼はとても腕が立つことで有名な医師で、しかも近々お嫁さんをもらって身を固める。こんな子供を相手にしている暇はない。
それに、ここは広い屋敷の中だ。こんな小さな声で彼の名を呼んでも、けっして春菊の声は聞こえない。
なにせ、この部屋から匡也の部屋に行こうとするならば、麩(ふすま)を三つも開けなければいけないのだから……。
「春菊様、お外はとてもいい天気ですよ?」
擦るような音と共に、障子がゆっくりと開くと、少女らしい明るい声がそこから聞こえる。彼女は春菊の世話をするためだけに雇われた、侍女のハルだ。
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