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(……昨日、俺……。なにかしたっけ?)  春菊は、自分に思い当たる節がないかどうか、思考を働かせ、考える。  匡也のその言葉はまるで、春菊が重労働をしたかのような口ぶりだった。  しかし、昨日は匡也のお母上に会っただけで、別段、何をするわけでもない。ましてや、春菊は身体が弱い。腰に負担がかかる運動など出来るはずもないのだ。  意味が分からず、ぽかんと口を開けた、間の抜けた顔をしている春菊を見下ろし、匡也はいまだ眉尻を下げ、心配そうにしていた。 「何かあった? 夢の中のことでもいいから言ってごらん? 少しは楽になるから」  それはとても優しい声。  その声に、言葉に、仕草に……思わず寄りかかりたくなってしまう。  でも、それはできない。いったい誰がどのツラを下げて、『匡也さんに好きだと言われた夢を見た』などと言うことができるだろうか。身分違いも甚(はなは)だしい。  だから春菊は首を振り、なんでもないと、そう答えた。 「春菊……?」  だが、やはり、匡也は春菊の言葉を信用しない。眉尻は依然として下がったままだった。 「ほんとう、なんでもないんだよ。ホラ、お仕事行かなきゃ!! ね?」  このまま自分の傍にいれば、優しい匡也に甘えたくなってしまう。  それに、いつまでも身体が接近していると、今朝方、見た夢のことをまた連想してしまいそうになる。浅はかな夢を現実にしたいと思ってしまう――……。  このまま、こうしていてはいけない。優しい彼を、春菊のおかしな考えで汚してしまう。  だって彼が自分を身請けしたのは、身体が弱っているにもかかわらず、無理矢理水揚げをさせられようとしたからなのだ。 相手が誰であれ、優しい彼は、誰でも簡単に身請けするだろう。

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