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 春菊と彼との身分はあまりにも違いすぎる。それを知っている春菊は自ら、彼との距離を置いた。  春菊は、いずれ、匡也が自分から離れていくだろうことを理解していた。今はいい。だが、いつかはきっと、彼は彼が想う女性と所帯を持つはずだ。  そうなった時のため、春菊はいつでも匡也から離れられるようにしておかなければならない。 「春菊、愛している。君が達する姿を見たい……。綺麗だよ、春菊……」 「ん、っふぅっ」  しかし、春菊のそんな無謀とも思える意志は、匡也によって簡単にねじ伏せられる。ねっとりとした何かが、春菊のうなじをなぞった。  それが匡也の舌だと理解した頃には、彼の薄い唇が春菊のうなじに吸い付いていた。 (匡也さん……) 大好きな人に綺麗だなどと告げられれば、もう何も言えなくなってしまう……。  春菊は、尚も攻め続ける匡也にとうとう観念し、自分自身を抑える枷という名の、手を外す。  そうして結局は彼に、触れられることを――吐精することを受け入れてしまう。  そうこうしている間にも、匡也の熱い口づけが春菊のあらゆる場所に落ちてくる。 「あっ、きょうやさっ……」  そこにはもう、自分を戒める言葉もなかった。あるのはただ、愛する匡也だけを感じている自分だけだ。  春菊は身体をひらき、匡也に溺れていく……。  それを感じ取った匡也は、秘部を弄る指を大きく動かした。――いや、それだけではない。  春菊の手という枷がなくなった自身を、匡也の手がすっぽりと覆い、上下に扱いたりと自由に這い回る。  そのたびに、奏でられる水音。 「ひぃああっ、匡也さんっ!!」 「今朝のあれは夢じゃない。春菊、本当に愛しているんだ。春菊、君しかいらない……」  肩口に唇を押し付けられ、愛おしい人にそう告げられると、春菊の胸が高鳴った。  これは夢だろうか。  告げられた言葉に、春菊は快楽に溺れながらも耳を疑った。  だが、その言葉に抗う力は、春菊にはもう残ってはいなかった。  彼への慕情が、あまりにも大きくなりすぎていたのだ。 「匡也さん……俺、俺もっ!!」 ――好き。  そう言った瞬間、身体が反転する。  また、寝間の上で仰向けにされた。  身体を包んでいた着物は、匡也に帯を抜き取られ、前がはだけている。  太陽の白い光が、見窄らしい色白の身体を包み隠さず照らした。  そんな春菊の目の前には、瞳孔が開ききった、雄を漂わせる彼がいる。

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