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episode.1-3
メインルームはやけにだだっ広い空間で、パソコンや機材の乗った机が整然と向こう端まで並んでいた。
海外ドラマの中央情報局を思い出し、思わず圧倒され立ち尽くす。
ただ如何せん、此処も暗かった。
萱島が突如現れようが、誰1人見向きもしない。只管に目の前の液晶を睨み、会話のひとつすら聞こえてこない。
不気味だ。
萱島の本部の第一印象はそれで相違無かった。未だどいつも若いであろう面が、一切の覇気を欠く。
声を掛ける先を見失っていると、誰かが1階から鉄筋の階段を下りて来た。
背の高い涼しげな目の青年。
先程履歴書に見た彼が、颯爽と萱島の眼前に現れた。
「はじめまして萱島さん、戸和です」
握手を交わす。丁寧だが表情筋が全く動いていない。
「時間も無いので手短に。どうぞ此方へ」
立ち振る舞いから何から、素晴らしくクールな男だった。
「…俺が来た理由は何て聞いてる?」
「社長からは現状の打開策が見つかったとしか…まさか萱島さん、貴方も勝手が分からず来たんじゃないでしょうね」
肩を竦める。戸和はそれを見やり、嘆息し、小声で悪態を吐いた。
「今月で何人目だと思ってる、俺に保育士になれとでも?冗談にしても性質が悪い、次から次へと使えない間抜けを人任せに…まあ、貴方にこんな事を言っても仕方ありませんから、さっさと付いて来て貰えますか」
気が立ってるにせよ、成る程。笑えない迫力だった。
経済ゴロとして事件屋でも開業すれば、一気に名が売れるだろう。
先立って上階へと歩く姿を追いかける。最中、ふと萱島は脚を止めた。
「…何ですか」
袖を掴まれた戸和が憮然と振り返る。
「子供が居る」
見下ろしす階下の一端、ドーナッツの袋を抱えた少年が走り回っていた。
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