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episode.1-4
「あれはA班のリーダーです」
どう見ても十を少し過ぎた頃だ。萱島は袖を掴んだまま固まった。
「研修の期間、萱島さんには各班に4日間籍を置いて仕事を理解して頂きます。渉は11ですが…情報工学のスペシャリストだ、学べる点は幾らでもある」
恐らく此処に居る職員全てが、何かしらの特殊技能を有しているのだろう。胃が痛い。
戸和は奥の机に相手を座らせ、キーボードを叩き始めた。何やら手持無沙汰の時間が生まれた。
萱島は徐に机上に散った書類を、一部取り上げる。
“『SBコーポレーション会計処理における報告書』
土地の資産計上額(593百万円)
・同社は生産・物流拠点のため、○年より△市の土地開発に着手。593百万円を外部会社に手付金等として支出し、建設仮勘定とした。
・担当者に問い合わせた所、(中略)…当時の関係者は既に退職しており、具体的な経緯は定かではない。”
「…仮装経理」
ぽつりと呟いた萱島に、戸和が顔を上げた。
「SB社は…確か2年後にこの進出計画は中止してる。建設仮勘定の回収可能性がなければ全額損失とすべきにも関わらず、恐らく業績仮装の為に未処理のまま…」
視線を感じてしまったと口を閉ざした。
「続けて」
然れど、予想に反して青年は更に促した。
「…だから、まあつまり…そのまま別件の土地開発に該当金額を忍ばせた形にしたんだろうな。双方の土地開発に関連性がない以上、同一視して計上するのは経理上問題がある。ただ土地勘定はそもそも時価でないし、今更掘り返してどうこう言っても何にもならないけど…」
「千葉、聞こえたか。もう一回鎌掛けてこい」
イヤホンマイクに命令を下す。何時の間にか、彼の手元の携帯は通話中になっていた。
「萱島さん」
真っ直ぐ射抜く瞳にたじろいだ。黙っている間に、視界に大量の紙束が放られた。
「俺とのお喋りはもう結構です。直ぐに目を通して下さい、昼までに」
余程時間が無いらしい。
淡々と告げる戸和の迫力は相当だった。
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