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episode.1-5

「今回は随分となよっちい奴が来たな。最短記録更新じゃないか」 給湯室でコーヒーを片手に間宮が言った。 昼休憩を迎えた折、職員らは“また”新しくやって来た責任者の話に花を咲かせていた。 「さーな…誰が来た所で変わるかよ、戸和ももう限界かもな」 「可愛げも限界も見えないけど」 「お前がそんなだからアイツの負担が増えるんだ」 眼鏡を押し上げる海堂の隣、洗い場で何かを掴まえた渉が走って行った。 間宮が眉を顰める。 「あの馬鹿、また…」 「仕方ない」 海堂が呟いた。水面に映る蛍光灯を睨む。 「同僚が死んだんだ。目の前で、何十人も」 渉が廊下の隅に駆け込んだ所、偶々通りかかった萱島に出会した。 怯む相手には見向きもせず、少年はその場に屈み込む。 萱島はドーナッツ少年に声を掛けようと、手を伸ばしかけた。けれど肩に触れる寸前で動きを止めた。 (うわあ…) あろう事か、彼は鼠を解体し出したのだ。 未だ腹を裂かれながら痙攣する生き物に、萱島は青褪めて閉口した。 「…血、胃、十二指腸、血、血、骨」 解剖の傍ら呟く。完全にサイコホラーだ。 「ジェームズが、全部食べる」 (ジェームズ?) 人名に引っ掛かる。何かのキャラクターか、彼の空想上の人物か。 「渉、それ…どうするんだ?」 臓腑をハンカチで包む少年に、恐る恐る問うた。初めて萱島を視界に入れ、渉は小首を傾げた。 「ジェームズにあげるよ」 「そのジェームズってのは…」 「ジェームズはもう腹一杯だとよ」 突然背後から声がした。 咄嗟に振り向くと、金髪の小柄な男が歩いて来た。 履歴書の男その2。副社長が会うなと宣う上司、元海兵隊員の派遣調査隊長だった。

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