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episode.1-9
「お前は非鉄金属で出来てるから分からんだろうが…」
「殴られたいのか」
「あの人、俺が何か教える度に手放しで感動して褒めてきて」
眼鏡を片手に机に伏せり、肩を震わせた。
「その後、滅茶苦茶可愛い顔で笑うんだよ…!」
戸和がまるで虫けらでも見るかの様な目を向けた。
「しかも近いし…ボディータッチ多いし…」
「思春期かお前」
「今年で22になります…それで極めつけに、なんか“お前が居ないと駄目”みたいな顔で見てくるんだ…分かるだろ?要するに何が言いたいかって、俺はもう好きになるしかないと思ったんだ」
単に海堂の病気だった。
問題なのは彼じゃない、お前の頭だ。しかし頬を染める海堂は、何やら空想の世界に旅立ってにやけ始める。
既に相手すら億劫になり、仕方なくインカムで男の上司を呼び出した。
B班デスクで萱島の相手をしている、班長の間宮を。
「間宮、お前の所の副班が邪魔だから引き取りに来い」
『………』
「間宮?」
応答しない相手を振り返る。
萱島の隣で指導する班長は、心なしか異常にもじもじとしていた。
「ま、まさか…間宮、お前までスナイプされたのか!」
「頭が痛い…萱島さん、良いです。貴方が戻ってきて下さい」
「なんてこった、あんな優秀な狙撃手を一体何処からスカウトしてきたんだ。こんな会社、一網打尽にされちまう!」
「萱島さんついでに…海堂の机の下、そう其処です。大量にAV隠してるんで没収しといて下さい」
「あっ」
海堂が両手で顔を覆った。器材の梱包ケースに入ったブツを手に、萱島が甚く複雑な表情で帰還した。
「お前…制服物多過ぎだろ」
「違うんです、レンタル用に揃えてあるんです」
「すみません萱島さん、面倒なんで俺の隣に居て貰えますか。海堂、お前はさっさと戻って仕事しろ」
絶対零度の瞳を向けられた海堂は悄然と撤退する。AVの入ったケースを頻りに振り返りながら。
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