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episode.1-12

「ああ、お前アレかいな、神崎社長に用事か。タイミング悪いなあ、昨日帰って来て…北海道行く言うてまた出てったで。お土産もうたけど」 「いや用事というか…どうやら俺も暫く此処に世話になるみたいです」 「ほんまか」 駐輪場を犬に頬ずりしながら男が歩いている。あれは確か関東孝心会の大城若頭。 見たくもないプライベートを見せつけられる、新手の拷問に萱島は目を覆っていた。 「なんや腹立つな、お前…ワシの上に住むんかいな」 「菱田さん、俺がダメージ食らうんでそのだっせェパジャマどうにかして下さいよ」 「おんどれ、喧嘩売っとんか!嫁が縫うたんじゃ」 息を荒げ、しかしそこで菱田はロビーに現れた姿を認めて大人しくなった。 「…おう、萱島。帰って来たで。副社長の方やけど」 慌てて顔をそっちにやった。今朝5分のオリエンテーションをしてくれた男前が、スーツを着込んで夕刊を片手に突っ立っていた。 「副社長」 面を上げる。心なしか一日で輪を掛けてやつれていた。 「何してんだ萱島」 「社長のご紹介で此方に…」 「…ん?何…ちょっと待て」 菱田に軽く会釈を寄越し、彼は携帯を取り出した。エレベーターと同時に件の男を呼び出しているらしい。 「――よう遥、お前一言俺に断わっとけよ。てめえ…何だそれ。萱島が可哀想だろ、謝れ」 直ぐに通話切断音が響く。液晶を睨め付け、次いで黒い双眼が伺う様に萱島へ移る。 「何かな、アイツお前の借家を勝手に…月末で引き払う方向で話してるらしいぞ」 「なんですって」 「意味分かんねえだろ。俺今度、後ろから刺してやろうかと思ってんだ」 無言で菱田に別れを告げ、エレベーターに乗り込む。 萱島は心此処にあらずだった。何だそれ。 然それどそんな事よりも副社長が大変だった。21階に上がる僅かな時間ですら寝落ちしそうになり、萱島は度々彼を現実へ戻してやらねばならなかった。

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