13 / 186
episode.1-13
「悪い、助かった。正直もう何徹目か覚えてなくてな」
「いつもそんなに忙しいんですか?」
「ああ。俺が過労死したらアイツを訴えてくれ」
彼曰く、社の定時は日付を跨ぐらしい。
よって必然的に皆本部に寝泊まりし、休日は寝たら終わるそうだ。
「俺は未だ良いよ、ずっと地下に居てみろ。時間の感覚は無いわ、マトモな食事も無いわ…発狂しないのが不思議なレベル」
職員等のいっそ病的な形相を思い出し、眉を潜める。
「そんな中、戸和が1人で指揮を?」
「アイツもな…弱音を言わないだろ。社長は益々調子に乗るし、本当うちの会社はお人好しで成り立ってるよな」
貴方がその最たる例では。という指摘は飲み込んだ。
オートロックのドアを開け、中に促される。何に使うんだというレベルで、だだっ広い空間が広がっていた。
最早邸に近かった。そりゃあ、高層マンションの最上階を纏めたらこうなるだろう。
掃除が大変そうだが隅まで綺麗にされていた。その手の業者に頼んでいるのか。
落ち着きない萱島を振り返り、家主は人好きのする目でじっと見ていた。
「お前、部屋どうする?帰って来ないにしても社長の隣とかやだろ」
「あ、いえ…お気遣いなく」
「角部屋で良いか。荷物も全部持って来ないといけないもんな、明日車出してやろうか?」
凄いなこの人。萱島は思わず相手を凝視した。
過密スケジュールの合間に社員の引っ越し手伝いまでする気か。
「大丈夫です副社長、良いからさっさと寝て下さい」
「晩飯どうすんだ、何か作」
「俺が作るんで其処で大人しく座って何も喋んないで下さい」
萱島は剣幕で押し切って彼を追いやった。気を抜いたら無限に甘やかしてきそうな人だった。
嘆息し、冷蔵庫を開ける。
幸いにも忙しい割に食材は揃っていた。
ともだちにシェアしよう!