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episode.1-13

「悪い、助かった。正直もう何徹目か覚えてなくてな」 「いつもそんなに忙しいんですか?」 「ああ。俺が過労死したらアイツを訴えてくれ」 彼曰く、社の定時は日付を跨ぐらしい。 よって必然的に皆本部に寝泊まりし、休日は寝たら終わるそうだ。 「俺は未だ良いよ、ずっと地下に居てみろ。時間の感覚は無いわ、マトモな食事も無いわ…発狂しないのが不思議なレベル」 職員等のいっそ病的な形相を思い出し、眉を潜める。 「そんな中、戸和が1人で指揮を?」 「アイツもな…弱音を言わないだろ。社長は益々調子に乗るし、本当うちの会社はお人好しで成り立ってるよな」 貴方がその最たる例では。という指摘は飲み込んだ。 オートロックのドアを開け、中に促される。何に使うんだというレベルで、だだっ広い空間が広がっていた。 最早邸に近かった。そりゃあ、高層マンションの最上階を纏めたらこうなるだろう。 掃除が大変そうだが隅まで綺麗にされていた。その手の業者に頼んでいるのか。 落ち着きない萱島を振り返り、家主は人好きのする目でじっと見ていた。 「お前、部屋どうする?帰って来ないにしても社長の隣とかやだろ」 「あ、いえ…お気遣いなく」 「角部屋で良いか。荷物も全部持って来ないといけないもんな、明日車出してやろうか?」 凄いなこの人。萱島は思わず相手を凝視した。 過密スケジュールの合間に社員の引っ越し手伝いまでする気か。 「大丈夫です副社長、良いからさっさと寝て下さい」 「晩飯どうすんだ、何か作」 「俺が作るんで其処で大人しく座って何も喋んないで下さい」 萱島は剣幕で押し切って彼を追いやった。気を抜いたら無限に甘やかしてきそうな人だった。 嘆息し、冷蔵庫を開ける。 幸いにも忙しい割に食材は揃っていた。

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