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episode.2-2
「そんなに気に病なまくても、戸和は何に対してもああいう生き物ですから」
「昔からあんな感じ?入った時から?」
「勿論。研修中に社長を説教して、その場で謝罪させた男ですよ」
「何それ怖い」
戸和が世界を征服する日も近そうだ。
相談を受ける傍ら、班長は何か勝手にレコーダーで萱島の声を録音していた。
何に使うのか尋ねたが、「俺はビジネスに多感な人間なんで」と良く分からない返答をされた。
「今日から俺の班でしょう、共同開発して一儲けしませんか」
「良いけど戸和に怒られるから嫌だ」
「主任、本当にアイツの事気に入ったんですね」
呆れた牧がゲーム機を手に肩を竦めた。
確かに。認めざるを得ない萱島は押し黙った。
だが言うなれば萱島は基本、人が好きだ。戸和に限らず副社長も、牧も海堂も渉も…みなが愛しく、構いたいし構われたい。
液晶画面から目を離さない相手のシャツの裾を掴む。
驚いた牧が顔を上げ、不可解な行動へ視線を寄越していた。
「牧、今日上がったら飲みに行こうぜ」
「良いですけど…」
変わらず顔色の読めない青年は、まじまじと新任の姿也を観察する。
「萱島さん、よくタチ悪いって言われるでしょ」
「え」
確かに言われるが。
そんなに鬱陶しいのか。
無言でシャツから手を離す。萱島は小学生の頃、可愛がっていた生き物がストレスで死んだのを思い出した。
その後戸和は神持って素晴らしく、宣言通り15分きっかりで戻ってきた。
バインダーを片手に隣に着く姿に、萱島はやはり些か嬉しくなる。
「…何ですか」
「あ、いや別に」
「その資料、急ぎで作ったので…不明点があれば今の内に聞いておいて下さい」
起動中のパソコンを放って、戸和が椅子ごと此方を向いた。
何だかんだ言って優しいのだ。
職員が幾ら無残にあしらわれようが、この青年を嫌いになれない訳がここにあった。
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