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episode.2-8

「オラ菱田ァ!お前…どう言う神経でうちの事務所燃やしてくれとんじゃ!!」 ゴルフの賞状が吹き飛ぶ。硝子が割れる。 お次は応接セットの机が蹴飛ばされ、隣で震え上がる若衆を薙ぎ倒す。 「や、やからその件は初耳やて」 「帰にさらせアホ!“武山”ゆう若いもんが自白しよったわ!!」 菱田の横っ面が張り倒された。 激痛に顔を歪めながら、菱田の脳裏に若い男の相貌が浮かんだ。 あの野郎、寝返ったのか。 青褪めた若衆の懇願も虚しく遠くに響く。 よもや、主戦力不在の現状も武山がリークしたに違いない。 「組長に火傷負わして何がすんませんや!!おい灯油持って来い!」 「ま、待て待て…話合うたら分かる…」 頭上から油が降り注いだ。 若衆が悲鳴を上げて飛び退く。このままでは事務所諸共火炙りだった。 ――ピンポーン。 突然、場違いに軽いインターホンが鳴る。 こんな時に何用だと、青筋を浮かべた男が出入り口へ迫った。 「…あほんだら!取り込み中じゃ!!」 「どうも~、デリバリーヘルスサービスでーす」 戸外から呑気な声が響く。 男の血管がビクビクと引き攣った。 「いらん言うとるやろ!とっとと帰らんかい!!」 半ば蹴り開ける様に扉を押しやる。 脇に立っていたのは、なんとスーツを纏った青年だった。 「お客様、当店キャンセルは出来兼ねます。心配なさらずとも私1秒もあれば十分」 「おっ…お前…萱島…!!」 「てめェみたいな不能も昇天させられる」 腹部に衝撃を感じて視線を下げた。 縦縞のジャケットが瞬く間に赤く染まる。 鉄砲だ。 男は呻き声を上げ、その場に膝をついて蹲っていた。

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