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episode.2-9

「か…萱島来てくれたんか…」 「なに萱島ァ!?武山の野郎!話が違うじゃねえか!!」 脱兎の如く逃げ出そうとした男が膝から崩れ落ちた。 壁に血飛沫が走る。 手前の組員が構えるより速く、顎下から萱島が躊躇無く蹴り上げた。悲鳴が起こる。 事務所が一気に阿鼻叫喚の巷と化した。 「外で待たしてるもん全部呼べ!はよう!」 「頭!俺らもいったん外に…」 言い掛けた青年が肩から吹き飛ばされ、昏倒した。 咄嗟に頭を下げるや、その数ミリ上に次々と銃痕が刻まれた。 「野郎…」 迫る萱島の手に、2挺目のCZ75が握られていた。 左右の銃口が一斉に此方を向く。 机上の灰皿から棚の時計から、何から何まで粉微塵になって消し飛ぶ。 華奢な単身の男が、まるで戦車一台に等しい。 マガジンキャッチを解放し、咥えた弾倉を装填する萱島が、見下す様に這い蹲る男を映した。 その瞳の妖しい昂りを目にし、男はごくりと唾を飲んだ。 涼しい表情に反して開き切った瞳孔。 指先が頻りにトリガーを引っ掻く。 (頭が可笑しいのか) まるで最中だ。光悦として、熱に浮かされて次を求めて。 ネジの飛んだ異常者に慄く、現場を事務所の四隅に据えられたカメラが鮮明に映し撮っていた。 そのモニター越しに惨状を見護る男が居た。 名は神崎 遥。 長い脚を組んだ彼こそR.I.Cの社長であり、萱島を引き入れた張本人であった。 『どうだい神崎君、見て貰うのが手っ取り早いかと思ったんだが』 「…疾患の域ですね」 『そう、疾患なんだよ神崎君。シャブ中やアル中と同じ…嗜癖と言うのかな。ただのアドレナリンジャンキーかと思えば、専門医曰く治療が必要なレベルなんだと。参ったもんだ』 全然参ってなさそうに電話の相手が言った。 それなら然るべき場所に突っ込んでは、という提言を神崎は殊勝にも止めた。 『萱島は特殊な生い立ちからスリル依存症なんだ。それでも手に負えなくなったのは最近で、禁断症状から夜遊びやら何やら、いやあもう酷いのなんのって…』 「それで何故俺の所に?」 『神崎君なら上手く飼い馴らすんじゃないかと思い至って』 「要らぬ信頼をどうも」 頬杖を突いて画面を眺める。 萱島が最後の男の腹を撃ち抜くのが見えた。 存外にも、1人として止めは刺していなかった。

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