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episode.3-1 「the past and the present」
機器の規則的な稼働音に、キーボードを叩く音が重なる。
正面のスクリーンに未了依頼が列を成す。
牧が手元のエナジードリンクを呷った。
カランとゴミ箱に投擲された缶が音を立てた。
「あーいを、止めないでもーうー」
誰だこんな時に歌ってる馬鹿は。
「U、Um~」
合いの手入れんなや。
「こーれが最後の…」
音源を振り返った。
主任が居た。お前かい。
「「Fall in loveー」」
隣でスキャナを取る千葉がハモった。
うるせー…。
一角だけ中二男子の昼休みと化したE班を見やる。
今日の研修が千葉の班だと聞いてから嫌な予感はしていたが。
牧は戸和に報告書を渡す傍ら、苦言を呈した。
「あの2人は何とかならんのか」
「仕事してるなら良いだろ」
「寝てない癖に何だアレ…そのエネルギーを一部でも俺に回してくれよ」
「そうだな」
「お前疲れてるだろ、適当に返事してるだろ、オイ」
微動だにしない戸和の肩を揺する。
その時メインルームの自動ドアが開き、ぎょっとする様な巨漢が現れた。
牧は口を開けっ放しに来客を見やる。
間宮が青褪めて飛び退き道を開ける。
彼はそんな周囲などお構い無しに前進するや、珍しくやつれた戸和に敬礼を寄越した。
「お疲れ様です副主任!突然申し訳ありません!」
「…いえ、何か御用ですか」
ウッドの暴力的な声量に顔を顰めた戸和が問うた。
「実は重要なお話が御座いまして!…主任はどちらに?」
戸和と牧が揃って斜め右を差した。
千葉とエーデルワイスを斉唱していた萱島が振り返る。
「え、何?俺?」
「萱島主任…隊長が」
眉尻を下げたウッドの面持ちに、萱島がぴたりと笑みを引っ込めた。
何やら込み入った話らしい。
判断を貰うべく戸和に一瞥をやれば、どうぞと手の動きで外を促された。
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