40 / 186

episode.3-3

「我々は何よりメインルームに急いだ。そうして割れた自動ドアを潜り、スクリーン前の敵を始末し、漸く息を吐いて辺りを視界に入れた…其処で」 ウッドの無骨な手が紙コップを握り締めた。 「其処で見た物が…一体我々は何処に居るのかと困惑しましたよ、主任。床から書類から大量の血液が飛散して、ボロ布の様に息絶えた人間が転がっていた。一体この中に、生きている人間が居るのかと本気で思う程にね。私は思わず惨状に一寸脚を止めた。すると…1人の少年が此方に走ってきたんです」 萱島の脳裏に渉の姿が浮かんだ。 「彼は泣き喚き、先まで喋っていた同僚の頭を元通りにくっつけてくれと縋った。目の当たりにしたサーの顔も…酷いものでした、あの光景だけは一生忘れられそうにない。私がこんな有様なんだ、彼らの衝撃は想像を絶する」 予告無く現れた武装集団。 いきなり無防備な彼らを虐殺した非情な暴力。 地獄絵図を描き眉を顰める一方、何故彼らが殺されなければならなかったのか。 疑問を抱いて萱島は口元に手をやった。 「無論我々は犯人の特定に全力を尽くした。しかし一向に尻尾が掴めない。唯一生け捕りに成功した敵も、度重なる拷問で遂に植物状態に等しくなってしまった」 ウッドは室内のパーティションに区切られた一画を指した。 「あそこに眠る男です。名前はジェームズ・ミンゲラ、今は我々が交代で世話をしている」 “ジェームズ”。 萱島は既知の名前にはっとした。 渉が鼠の臓物を食べさせようとしていた相手は、彼の憎悪の対象だったのだ。 「副主任も良く気に掛けて見に来ていました」 「…戸和が?」 「ええ、彼は事件の直後に入社しましたから…知らない人間からすれば、ジェームズは同情に値する存在でしかない」 一室に幽閉された男は、冷静に考えればただ命令を遂行した駒の1つだった。 然れど全員の怒りは、必然的に其方に向いていた。 「神崎社長は恐らく…黒幕を追い続けている」 ウッドが天井を見上げて零す。 それから視線が萱島へ戻る頃には、いつもの厳しい顔つきにすべて仕舞い込んでいた。 「サーは最後まで付き合う心づもりだった。しかしそれももう、無理な話だ…では主任、サーの件は宜しく頼みました」 敬礼し、踵を返した大きな背中が遠のく。 一人残された萱島は、暫しその輪郭が消失点に向かうまで見送り続けていた。

ともだちにシェアしよう!