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episode.3-3
「我々は何よりメインルームに急いだ。そうして割れた自動ドアを潜り、スクリーン前の敵を始末し、漸く息を吐いて辺りを視界に入れた…其処で」
ウッドの無骨な手が紙コップを握り締めた。
「其処で見た物が…一体我々は何処に居るのかと困惑しましたよ、主任。床から書類から大量の血液が飛散して、ボロ布の様に息絶えた人間が転がっていた。一体この中に、生きている人間が居るのかと本気で思う程にね。私は思わず惨状に一寸脚を止めた。すると…1人の少年が此方に走ってきたんです」
萱島の脳裏に渉の姿が浮かんだ。
「彼は泣き喚き、先まで喋っていた同僚の頭を元通りにくっつけてくれと縋った。目の当たりにしたサーの顔も…酷いものでした、あの光景だけは一生忘れられそうにない。私がこんな有様なんだ、彼らの衝撃は想像を絶する」
予告無く現れた武装集団。
いきなり無防備な彼らを虐殺した非情な暴力。
地獄絵図を描き眉を顰める一方、何故彼らが殺されなければならなかったのか。
疑問を抱いて萱島は口元に手をやった。
「無論我々は犯人の特定に全力を尽くした。しかし一向に尻尾が掴めない。唯一生け捕りに成功した敵も、度重なる拷問で遂に植物状態に等しくなってしまった」
ウッドは室内のパーティションに区切られた一画を指した。
「あそこに眠る男です。名前はジェームズ・ミンゲラ、今は我々が交代で世話をしている」
“ジェームズ”。
萱島は既知の名前にはっとした。
渉が鼠の臓物を食べさせようとしていた相手は、彼の憎悪の対象だったのだ。
「副主任も良く気に掛けて見に来ていました」
「…戸和が?」
「ええ、彼は事件の直後に入社しましたから…知らない人間からすれば、ジェームズは同情に値する存在でしかない」
一室に幽閉された男は、冷静に考えればただ命令を遂行した駒の1つだった。
然れど全員の怒りは、必然的に其方に向いていた。
「神崎社長は恐らく…黒幕を追い続けている」
ウッドが天井を見上げて零す。
それから視線が萱島へ戻る頃には、いつもの厳しい顔つきにすべて仕舞い込んでいた。
「サーは最後まで付き合う心づもりだった。しかしそれももう、無理な話だ…では主任、サーの件は宜しく頼みました」
敬礼し、踵を返した大きな背中が遠のく。
一人残された萱島は、暫しその輪郭が消失点に向かうまで見送り続けていた。
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