45 / 186

episode.3-8

くちゅりと水音が響いた。 不明瞭な意識の中、ただ柔らかく食まれ背筋が痺れた。 頬を紅潮させ、行き場無く手を伸ばす。 乱れた息が零れる。漸く焦点の合い始めた目が、少し距離を開けた相手の姿を捉えた。 「ふ…、何…して…」 「会いたかったぜ、萱島」 闇に獰猛な獣の目が光った。 圧しかかられ、萱島は呆然と見上げ息を飲む。 「さ、相模さ…」 「随分仲良くなったな、この阿呆と」 大きな手が萱島の胸に触れた。 形を確かめる様に、シャツの上からじっとりと辿る。 何てこった。 青褪める萱島を余所に、相模は寝起きの耳元に唇を寄せた。 砂糖菓子の如く舐め取り、執拗に愛撫する。 絶妙な感触へ、息を詰めて抵抗を試みる。 「う、や、止めろ…下さ…い…、俺はもう眠い…」 「つれねえな、良くしてやるから」 「ま、間に合ってま…」 腕を掴み、引き剥がそうとした。 が、全く力が入らない。 萱島は相模が苦手だった。 …何だか似ていたのだ、好き勝手に抱こうとする自称“恋人”に。 軽い音を立て、唇を何度も啄ばまれる。 角度を変え柔く下唇を噛まれる。 眠気と戦いながら、萱島は頑なに歯を食い縛った。 せっかく今日自分と彼は、他に無い友情を築き上げようとしていたのだ。 それを早々に壊されて堪るか。 そんな健気な想いなど知る由も無く、相模は手を差し入れて首筋を撫ぜた。 触れるか触れないかの、絶妙な加減に肌が粟立つ。 「っふ、…」 あっさりと開いた隙間から舌を絡め取られた。 萱島の手がシャツを引っ張った。 性急な訳でもなく、味わうかの如くゆっくりと深まる。 慈しんで舌先を吸われ、思わず肩が跳ねた。 くっそ上手い。 流石、初体験U(アンダー)15。 腹立たしいが力でも敵わず、萱島は内心地団太を踏んだ。

ともだちにシェアしよう!