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episode.3-8
くちゅりと水音が響いた。
不明瞭な意識の中、ただ柔らかく食まれ背筋が痺れた。
頬を紅潮させ、行き場無く手を伸ばす。
乱れた息が零れる。漸く焦点の合い始めた目が、少し距離を開けた相手の姿を捉えた。
「ふ…、何…して…」
「会いたかったぜ、萱島」
闇に獰猛な獣の目が光った。
圧しかかられ、萱島は呆然と見上げ息を飲む。
「さ、相模さ…」
「随分仲良くなったな、この阿呆と」
大きな手が萱島の胸に触れた。
形を確かめる様に、シャツの上からじっとりと辿る。
何てこった。
青褪める萱島を余所に、相模は寝起きの耳元に唇を寄せた。
砂糖菓子の如く舐め取り、執拗に愛撫する。
絶妙な感触へ、息を詰めて抵抗を試みる。
「う、や、止めろ…下さ…い…、俺はもう眠い…」
「つれねえな、良くしてやるから」
「ま、間に合ってま…」
腕を掴み、引き剥がそうとした。
が、全く力が入らない。
萱島は相模が苦手だった。
…何だか似ていたのだ、好き勝手に抱こうとする自称“恋人”に。
軽い音を立て、唇を何度も啄ばまれる。
角度を変え柔く下唇を噛まれる。
眠気と戦いながら、萱島は頑なに歯を食い縛った。
せっかく今日自分と彼は、他に無い友情を築き上げようとしていたのだ。
それを早々に壊されて堪るか。
そんな健気な想いなど知る由も無く、相模は手を差し入れて首筋を撫ぜた。
触れるか触れないかの、絶妙な加減に肌が粟立つ。
「っふ、…」
あっさりと開いた隙間から舌を絡め取られた。
萱島の手がシャツを引っ張った。
性急な訳でもなく、味わうかの如くゆっくりと深まる。
慈しんで舌先を吸われ、思わず肩が跳ねた。
くっそ上手い。
流石、初体験U(アンダー)15。
腹立たしいが力でも敵わず、萱島は内心地団太を踏んだ。
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