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episode.3-11
眩しさに顔を背け、身動ぎした。
舞い込む朝の風は肌寒い。
柔らかな白い空間で、萱島は本能的に目の前の体温に縋った。
体温。
はっとして首を擡げた。
触れる距離で、本郷が安らかに寝息を立てていた。
「………」
昨日の記憶が蘇り萱島の時が止まる。
全身から面白い様に血の気が引く。
いや待て。幸いな事に、眠る彼は何も知らない。
そもそも何ら気まずい事態なんて起きてない。
ちょっと彼の交代人格があんな所やこんな所を触っていただけだ。
分かったらさっさと服を着れば済む話だった。
「何故態々俺の服を遠くに…」
ぼやきつつ、無理な体勢で懸命に腕を伸ばす。
しかしその気配に本郷がぼんやりと薄眼を開け、覚醒した。
あっと思わず心の悲鳴が漏れる。
彼が1日の始まりに見た物は、シャツ1枚で半ば覆い被さる萱島の姿だった。
「…お前…それ」
「えっ!や、やだ!起きてたんですか本郷さん!」
やっと届いた服を放り出し、萱島が飛び退いた。
唖然と脚を露出した相手を見やる。
本郷の脳裏に大学の一件…その他諸々の過ちが蘇っていた。
「その、悪い…何も覚えて無くて…」
「はい…?あ、ああ…これ?いや参っちゃいますよね、ほんとね最近急に暑くなっちゃってね」
「もう秋も深まるが」
「ねー、ほんと何時までも暑くて困るわ…そういう訳で、ちょっと朝シャンしてきますんで」
萱島は浴室に逃げた。
何だろうこの気まずさは。
その後も殆ど顔を合わせる事無く、支度もそこそこに家を出る。
ジャケットを抱え、通勤の傍らネクタイを結ぶ。
朝から重い溜め息を吐き、ふと携帯を取り出した。
新着メールが来ていた。
萱島は脚を止めて添付ファイルを開き、次いで道端なのも忘れ絶叫した。
「…相模てめええええ!」
霰も無い姿で眠る自分が写っていた。
送信元は無論、彼の携帯だった。
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