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episode.3-12

「萱島さん、どうしたんですか」 「何がだよ」 「ネクタイ片結びになってますよ」 メインルームへの道程、間宮の言葉に脚を止めていた。 廊下の半ば、自身の胸元を見やる。 本当だった。電車での子供の視線に、今漸く合点がいった。 「…何だ間宮、俺のオシャレに文句つけんのか」 「オシャレ?ああ、それは失礼しました。じゃあ」 「間宮、待っ…ごめんって、結び直すから待ってよ」 部下の襟首を掴んで引き止めた。 煩わしそうな顔をしつつも、何だかんだ鞄を持ってくれる。 彼も哀しいかな、こんな馬鹿らしい萱島の言動に絆される男の1人だった。 「あれ?どうやって…間宮これ、こっからどうなってる?」 「下手くそか」 「違うんだよ今日ちょっと…そうだ、下らない相談なんだけどさ」 間宮が首を傾げた。 鞄を受け渡し、2人は再びメインルームへと歩き始めた。 「例えばこう…友人というか、気の合う相手と事故が起きたらどうする?」 「事故って例えば?」 「うん、まあ…うっかり性的関係を…とか」 間宮が血相を変えて上司の肩を掴んだ。 「萱島さん…!誰だ、誰と性的関係を持ったんだ…!」 「ち、違う俺のツレがそんなアレで悩んでましたっていうアレだよ」 「ツレ!?本当でしょうね?」 切羽詰まった間宮に気圧されつつも頷いた。 何だか知らないが勢いが怖かった。 不承不承相手を離し、間宮は顎に手をやって思案する。 試しに海堂とそんな状態になった状況を想像してみたものの。 危うく廊下に吐く所だった。 「…おい間宮大丈夫か、急にしゃがみ込んでどうした」 「ちょっとすみません、性的事故については分かり兼ねますが…」 青い面で立ち上がり、胸を摩りつつ進言する。 「本当に気が合うなら、たとえ突発的に腹の立つ事があろうが、数十年会わなかろうが…不思議と勝手に続くものですよ」 萱島は簡素な返事を仕舞いこむ。 部下の横顔が、心なしか不調の所為でない影を帯びていて。

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