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episode.3-14
「…エントランスにIDを持たない人間が」
キーを叩き、画面を目まぐるしく切り替える。
漸く出入り口の地下駐車場が映し出され、2人は液晶を無言で覗き込んだ。
同じく沈黙する駐車場の真中。
1台のワゴン車が滑る様に現れる。
フルスモークに覆われた窓を見て、萱島は一瞬同業かと疑ったが。
停車したドアを蹴り開け、現れたのは突撃銃を携えた軍事会社の人間だった。
一体どういう事態だ。
カメラの奥、合成の様な映像に両者は嫌な汗を浮かべる。
「あ、ああ…うう」
少年が朦朧とふら付く。頭を抱え、地面に這い蹲った。
咄嗟に駆け寄る者すら居ない。
全員が動きを奪われ、悲惨な形相でスクリーンの警告を眺めていた。
「――…業務放送!先程武装した何者かが地下に侵入した。通路の安全を確認次第、直ぐに第二非常口より退避する。班長は職員の避難誘導、E班より順に非常口へ向かえ!」
インカムに響く牧の声が、呆ける職員らを現実に引き戻す。
自分は未だパソコンへと向かう中、思考は混乱の渦を彷徨い続けていた。
誰が、一体何の目的で。
まさかまた、あの悪夢が。
「牧、PCはどうする?」
「非常用の凍結システムを作動します…いざとなれば遠隔で掃除出来る」
「退路の確保は?」
「正面はシャッターを下ろして封鎖しました。去年設置した特注だ、これで先ず侵入は不可…」
牧は閉口した。
監視カメラにとんでもない物が映っていた。
黒い怪物の如きドリルカーが、駐車場に轟音と共に下りてきた。
一団が退いて道を開け、巨大な車体が徐々にエントランスへと迫り出す。
「…そのシャッターとやら、アレだと何分持つ」
「さあ、少なくとも任務で出払った調査員が戻るまで1時間…それまでは絶対持ちませんが」
何か嫌な予感がして、牧は隣のパソコンを叩いた。
別位置のカメラ映像を起動して舌打ちをする。
「アイツら…何故非常口まで固めてやがるんだ?どうやってあの位置を割り出した?」
調査員スケジュール及び本部構造の把握。
内通者か。
2人は勘付いたが、今は職員の安全確保が最優先だった。
「牧、俺が出る一瞬で良い」
液晶から面を上げた。
萱島が見た事の無い目で映像を睨んでいた。
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