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episode.3-15

「シャッターを開けててくれ、後は何があっても出て来るな」 「ちょ、主任…!」 萱島は自分の上着を掴んで走り出した。 警告音が鳴り止まぬメインルームを飛び出し、エントランスへと直走る。 何だってこんな。 愛銃を引き抜き、駆ける萱島の表情が陰る。 頼むからこれ以上、彼らを追い詰めないでくれ。 シャッターの隙間を潜り抜け、どうにか車の影へ飛び込む。 肩で息をしながらマガジンを装填し、ゆっくりと距離を詰める黒い車体へ銃口を向けた。 この9mm弾じゃエンジンはとても無理だ。 防弾でなければ、タイヤならあるいは。 片目でフロントサイトを射抜く。 ざらつくブロック塀に腕を掛け、萱島は舌打ちをした。 (糞が…びびってんじゃねえよ) 額を汗が伝った。 (一番肝心な時になって、お前は) 撃ち慣れた筈の銃が震えた。 外せない。 そのプレッシャーが恐ろしく重く両肩に圧し掛かった。 どうだって良かったんだ今までは。 背後に庇う物が出来た途端、とんだ臆病者と化した。 頼むから当たってくれ。 正確な射撃など習った訳も無かった。 銃口が定まらない。 サイトの向こうがぶれる。 焦燥に思考が掻き乱された。 『――…Hey, buddy…It's OK ?』 目を見開いた。 俄かにインカムからネイティブ・イングリッシュが流れ込んでいた。 『…Like a good boy. Hold the weapon with two hands firmly, now(良い子だ、銃身は両手で保持しろ。さあ)』 戸惑いを払拭する落ち着いた声音。 何処かで耳にしたような、独得のテンポに萱島は息を飲む。 『Keep both of your eyes open and aim…That is a good two hand hold stance. Hold fast(両目を開けて狙え…そう良い姿勢だ。その調子で行け)』 当惑しつつも萱島は両目を開いた。 教示通り体勢を維持したままサイトを見据える。 車体が右折し、シャッターまでの直線に差し掛かった。 唸りを上げるドリルカーの迫力へ、自然、身体が竦んでいた。

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