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extra.2-2

30分もすればメインルームの全員が勘付いた。 今日の主任は、輪を掛けて、触らぬ何とやら。 因みに戸和君は本来、海闊天空な心の広き男だ。 私情で理不尽に怒る様な事はしない。多分。 彼が唯一虫けらの如く扱うのは、仕事の出来ない人間に限る。 主任はどう見てもそこに該当しない。 (あれは戸和なりの躾けの一環なのか…) 咥えたストローの先を弄び、明日期日の報告書を詰める。 「どうにかしろよ牧、何のために毎日エロゲやってんだよ」 「エロゲ関係ねえだろ」 千葉の苦言を往なしたが、さてどうした物か。 思案している間に、バインダーを抱えた主任が此方へとやって来た。 ストローを咥えたまま固まったが、上司は何ら言及せず淡々と口を開く。 「牧、明後日夕方から下とミーティングやるから空けといて。それから来月のシフト相談したい…ちょっと隣座るよ」 椅子を引いて隣に掛ける上司をまじまじと見る。 すげえ真面目に仕事してんな。 いや仕事は何だかんだやってたが、何時もなら此処で意味も無く昨日の晩飯の話を振って来る筈だが。 「主任、別に俺にまで堅苦しくしなくても」 「何がだよ、書く物借りるぞ」 机上のボールペンを奪われた。 こうなると本当にただの出来る上司だ。 一寸も文句は無いが何だろう…この違和感は。 「戸和はキレてる訳じゃないと思いますよ」 ぴくりと主任の動きが止まった。 ペン先が何も残さずウロウロと紙上を彷徨う。 「俺は…何も、奴の話など」 「そんな気にしなくても、終礼には戻ってますから」 「…まじで?」 素直さに関しては一入だった。 「嫌われたとでも思いました?」 「思ったよ…普通に」 書面を見詰めたまま意味の無い記号を紡ぐ。 その横顔が、不意に憐れになった。 「昼どっか外に食べに行きましょうか」 提案にやっと上司が視線を寄越した。 完全に叱られた子供の目をしている。 「まあ、俺で良いならですけど」 「…牧が良い」 相変わらず性質の悪い人間だ。 大人しくなった相手から暫定シフトを奪い、牧はさっさと訂正を書き込み始めた。

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