63 / 186

episode.4-2

間も無く日が最も近くなろうかという折。 本部に向かう手前、今日も多忙の副社長は自宅へ車を走らせていた。 秋晴れの陽光に眼をやられ、エレベーターの中では旅立ちかけ。 やっと我が家の扉が迫り、ふらつく足元で鍵を開ける。 漸く休めると安堵したのも束の間。中に入った本郷は思わずスーパーの袋を手放した。 一寸言葉を失い、当たり前の様に居る男へ苦言を呈す。 「…びっ…くりした…お前、帰って来るなら何か言ってくれ」 「帰った」 「今じゃねえよ」 呆れて落とした物を拾い上げる。 リビングには菓子を咥え、新聞を広げる社長が居た。 「何処行ってたんだ今まで」 「そうだ義世凄かったぞ…稚内なんて今で気温が2桁切って、風が吹いたらほんと真冬レベル」 「…北海道で何してた」 「何だよさっきから、小姑かお前は」 「喧しい」 特売の玉葱を投げ付ける。 掴まえた神崎が新聞を畳み、此方に静止を掛けた。 「待て待て義世、お陰でどうやら尻尾が掴めた」 「何?」 「…パティ、水浴びは終わったのか。昼はもう少し待て」 本郷は気配を感じて背後に目をやった。 何時の間に。 馬鹿みたいにでかい鳥が、猛禽類特有の眼光で此方を射抜いている。 「パトリシア…良かった未だ生きてたのか」 琥珀色の目をくるくると回し、鷲は甲高い声でキーキーと鳴いた。 彼女は神崎が友人の御坂から押し付けられた絶滅危惧種だ。 何が気に入ったのか知らないがこの男に懐き、旅先にまでついて回っていた。 てっきりもう唐揚げにでもされたかと思っていたが。 本郷は感慨深く元気そうな姿を眺めた。 「さて忙しくなるぞ義世」 「…これ以上か?」 ダイニングテーブルの上には、北地の土産が山積みにされていた。 その一角を自ら食していた男が口端を上げる。

ともだちにシェアしよう!