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episode.4-3

「怒るなよ、頼りにしてる」 「調子の良い野郎だな。その台詞は聞き飽きた」 「キルル」 パトリシアが少し甘えた声音で鳴いた。 忙しなく首を動かす。 そうしてばさばさと巨大な両翼を広げ、何か言う間もなく神崎に飛び掛かった。 「ちょ、待て重い…重いんだよお前は」 肩に飛び乗ろうと躍起だ。 神崎は彼女を腕に止まらせ、席を立った。 ベランダの窓を開け、秋晴れに鷲を解き放つ。 大きなシルエットが羽ばたいて瞬く間に空へと消えた。 保健所に通報されるぞ。 腕を組んで奇妙な光景を見やり、本郷は眉根を寄せる。 「ところで萱島君は元気にしてるか?」 不意に神崎が話題を変えた。 そう言えばそうだ。件の青年は、この男が連れて来たのを思い出した。 「元気も何も…見る度其処から飛び降りそうな勢いだぞ」 「ふうん、高層階が裏目に出たな」 そのままベランダの手前へ腰を下ろす。 開け放した窓に背をつき、神崎はメンソールの煙草へ火を点けた。 高級スーツで床に座り込む男に嘆息する。 机上にぶち撒けられた限定品を視界に入れ、本郷は「獣肉」と書かれた缶を渋面を作って摘み上げた。 「でも似てるだろ、お前に」 「…そうか?」 「自己犠牲的な所とかな…おいだから怒るなよ、感謝してるんだ本当に。しかし参ったな、御坂にでも相談してみるか」 指先に煙草を挟んだ男が肩を竦める。 苦手な陽光に照らされた瞳は、殆ど色素が失せていた。 「カウンセリングの類いならお前で良いんじゃないか」 他意無く本郷は言った。 神崎にはその手の奇妙な素質があった。 推薦を受け、紫煙を吐いた相手が表情のみで笑う。 「それなら俺より適任が居る、特に萱島君みたいなタイプは…素直だから理論整然と叱られれば正す」 「適任?」 萱島を理論整然と叱る人間など、考えてみれば思い当るのは1人だけだ。 確かに適当だがよもや、これ以上彼の負担を増やす気か。 今日は束の間年相応の日を送る部下に想いを馳せ、本郷は複雑な表情を浮かべた。

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